孤独の歌声

完全無欠かどうかは別として、これはカンペキ、ミステリーである。 テンポは幾分、ゆっくり。 カナリの頻度で人称が変わるのは、登場人物の特性を客観的に洗い出すよりむしろ、個的な心理を個的なまま現して読...

家族狩り

平成8年第9回山本周五郎賞受賞作品。 本作品は「永遠の仔」の原点として位置付けられている。 そのことについて「確かに」と同時にかなりの「異質感」も持ってしまうのはなぜだろう。 例えばA項を赤としZ...

森の中の海

例によって「わが国は・・・」がそこここに連発される。 いつのころからか説教節が重奏低音のように流れる作風になっていったのは、と想いを巡らしてみる。 これが「鼻につく」向きもあるには違いない。 ほぼ...

溢れた愛

1996年から1999年に「小説すばる」掲載された短編4編を書き直し、まとめられた。 巻末「謝辞」に本篇を指して ___ある長編の執筆過程から新たに浮かんだ素材やテーマを、違う形で表現した と...

永遠の仔

恐ろしく分厚い上下巻、しかも中は細かい字の2段組が読み始めると止まらない。 老人病棟のナース、弁護士、刑事、登場人物の周辺を描くことで、つまり社会の様々な様相を巧みに広げてみせる。軸のストリー展開...

花伽藍

2000年11月から2001年12月に小説新新潮掲載の5編を掲載順に編んだ短編集。 まず「鶴」 男も顔負けの凛々しい太鼓を打つ夏の申し子とホタルの化身の出会いと別れ。 ホタルは悲しみに自らの身を焼...

風のかたみ

おどろおどろしき妖術を操る陰陽師など、時代物ならではの面白みも堪能しつつ、今昔物語に題材を求めた王朝ロマン、雅にして、妖しくも繰り広げられる、原型ともいうべきクラシックな恋物語も飽きず読み進める。 ...

サグラダ・ファミリア 聖家族(文庫)

通常とは異にするセクシュアリティーを有す者の恋物語の底に、読者は別の世界を見る。 「恋愛」という形を借りた一つの家族の誕生と魂の再生の物語なのである。 男の要らない女と女の要らない男、そしてこども...

プラナリア

表題の「プラナリア」他5作を納めた中編集。 全く別の5作品が、まるでオムニバス仕立ての一つの作品のように感じられる。 各作品に書き分けられた5人の女たちは、実は現実の女の多面性を言い当てているから...

女ざかりの痛み

なんともはや、正直なエッセイ集である。 「家にいたい女」も「仕事したい女」も必読の書かもしれない。 なぜなら、最後一枚の皮まで剥いだ女の中身は、多少の個別な差異はあるにせよ、そんなには違わないはず...

猫背の王子

人を何かへの反応タイプに区分するとして、その一つの方法に小説を読んで「欲情する」「しない」というのはどうだろう。 ワウワウやスタチャンのピーチタイムムービーでは「しない」けれど小説では「いける」とい...

顔に降りかかる雨

あと書きに、本作品は作者がミステリー作家として本格デビューし、江戸川乱歩賞受賞なった作品であり、探偵「村野ミロ」シリーズ誕生の土壌ともなったとか。 確かに読みながら、読み終えて「続き」があるだろうと...

木を植えた男

なぜとはなしに最初から読み始めた。ぱらぱらっと頁をくった時にきれいな挿絵が目に飛び込んだせいかもしれない。 たいがいは何かを読み始める時、さきに作者・訳者後書きに目を通す。 映画の試写なら、パンフ...

中年ちゃらんぽらん

「夫婦とはお互いに空気のような存在だ」という言い方がある。 何かの縁で、あるいは様々な紆余曲折を経て一緒になったにせよ、時がたつにつれ男と女の関係と言う意味合いは失せる。 まったく意識せずに済む空気...

雨の日には車をみがいて

ビートルズが来日し、常磐ハワイアンセンターがオープン。中国に文化大革命がまきおこった年。 1966年からストーリーは展開を始める。 主人公はTV番組や歌謡ショーの構成、CMソングの作詞、PR誌の編集...

狼たちへの伝言

『真のインテリジェンスを備え、退くことを拒み、こだわるべきところは断固こだわる。常にエキサイティングな状況に身をおく「狼」だけが勝者として生き残る。目先の損得や名誉が欲しい、柵の中でぬくぬくとしてい...

笑いのモツ煮こみ

時間を持て余しそうなとき。たとえばルーズな人との待ち合わせ、歯医者さんの待ち時間、美容院や電車の中など、この一冊は最適。退屈しないで済む。難しい理屈抜き、とにかく笑える。 近頃は子どもといわず、おと...

思い出トランプ

どれも20頁たらずの11作品を集めた掌編集。短編・掌編集というと、たいてい中につまらない、物足りないと思わせるものがあったりするが、この作品はどれをとっても「うーん」とうならせるものがある。 「花の...

九月の空

主人公の勇は高校生。剣道部に所属し、土曜日には市の警察署で高段者と市内を交えるのを楽しみにしている。 どうやら思春期を脱け出そうとしている。かといって青年と呼ぶには今少し。といった勇の心の動きを作者...

柳生真吾と行く「八ヶ岳倶楽部」の”庭”

「名前に似つかわしいいずまいでしょう」しゃがみ込んで足元のヒトリシズカ(=ひとり静か)に優しく指先で触れる。花を終えて実を結んでいるカタクリのことを「ご懐妊です」などと言ったり…&hel...