雨の日には車をみがいて

ビートルズが来日し、常磐ハワイアンセンターがオープン。中国に文化大革命がまきおこった年。
1966年からストーリーは展開を始める。
主人公はTV番組や歌謡ショーの構成、CMソングの作詞、PR誌の編集などで食いつなぐマスコミのナンデモ屋。20代なかば、独身。運転免許とりたての彼が手に入れた車はオンボロのシムカ1000.助手席にはタレント志望の瑶子が。
「車は雨の日にこそみがくんだわ。ぴかぴかにみがいたボディーに雨の滴が玉になって走るのって、すごくセクシー」
瑶子が言ったセリフである。

シムカをアルファロメオに、ボルボ122Sアマゾン、BMW,ジャグヮー_JX6ビッグキャットにと、乗り換えていく。その時々に、車に吸い寄せられるよ うに、タイプの異なった女性が現れる。7台の車と7人の女性が登場する。つまり7話の小ストーリーが連なるオムニバス手法。時は流れ、世も移り車を換えな がらさまざまな経験を重ね、無鉄砲な若僧はれっきとした一人前の男に…。という具合だ。

「過ぎ去った時代を懐かしむ歌でも、青春を弔う物語でもない。ある時代に贈る言葉として差し出したつもりである」
作者はあと書きにそう記しているが、作者が車に関して無類のエンスージアジストであり、作家になるまでの彼の経歴とを考え合わせると、どうしても読んでいるうちに主人公と作者がダブルイメージで胸に残る。

「これまでに書いたどの小説より楽しみながら書いた」
とあるように、読者もまた、60年代の後半から80年代の末までの時代の推移をたどり、テンポの速い切れ味も楽しみながら、読み進めていける。

何よりも驚きだったのは、「ドアが一つか、二つか」の違いしかわからず、車ってのは「ワッカが四つついた乗り物」ぐらいの識別しかできない、かなり重症の車オンチさえ、車に対する男の心理と、車自体が持つキャラクターについて、わかった気にさせることである。
えっ、そのオンチ、誰?ってか。
いわんといて!!


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作者名:五木 寛之
ジャンル:小説
出版:角川文庫

雨の日には車をみがいて(集英社文庫)