1996年から1999年に「小説すばる」掲載された短編4編を書き直し、まとめられた。
巻末「謝辞」に本篇を指して
___ある長編の執筆過程から新たに浮かんだ素材やテーマを、違う形で表現した
とあり、曰く長編とは「永遠の仔」だと納得する。
「とりあえず、愛」「うつろな恋人」「やすらぎの香り」「喪われゆく君に」を集めた4編のタイトルに「溢れた愛」とは、これまた「しかり」と重ねて納得。
「等身大の愛」。言うは易く、成し難しの代表格である。
前者2編は、受け手にとって「愛」と感じられなければ溢れるほど愛してたって、何の意味もないばかりか、返って迷惑千番。形、質、量が合致しない、「いらんおせっかい」も過ぎると人を傷つける刃にも変じるというののサンプル。
後者2編は、その「困難いかばかりか?」というお話し。
そして全編をとおして、親子であれ夫婦であれ、はたまた友人同士であれ、仲間であれ、およそ人と人との間に生まれる不具合、問題は全てその「塩梅」に起因していると教えられる。
何気なさそうでいて、下地に緻密な聞き取り・取材があればこそ、かなり特殊な題材やストーリー展開に荒唐無稽なとっぴさは感じさせない。
執筆プロセスでこれだけの素材・題材が「溢れた!」ところからも、前述の長編の膨大な資料収集が伺える。
「そう、そう」と相槌を打ちながら読み終えたら、ちょっとばかし優しい気持ちになってしまう。
作者名:天童 荒太
ジャンル:小説
出版:集英社