顔に降りかかる雨

あと書きに、本作品は作者がミステリー作家として本格デビューし、江戸川乱歩賞受賞なった作品であり、探偵「村野ミロ」シリーズ誕生の土壌ともなったとか。
確かに読みながら、読み終えて「続き」があるだろうと誰でもが思う。
とすれば、作者は書く前に、書きながら、書き終えて、どの段階で「シリーズ化」を思ったのだろう。
そのあたりの疑問を解くべく次作「天使に見捨てられた夜」をパラパラとめくってみた。
本作で「きっとなるだろう、探偵に」段階で終わったのが、第二作ではのっけから、主人公・村野ミロはすっかり探偵やちゃってる。江戸川乱歩賞獲ろうが、獲るまいが「続き」は計画されていたのだ。恐るべし「作家」。
が、あんなに「父の探偵業、継ぐ気ない」と言ってたんだから、なりきるまでのいきさつをちょっとは書いてほしい。いや待てよ。第二作を読み進めば、そのへんのことが書いてあるかもしれない。
と言う具合に、読み終えると次作を読まねばならなくなる。好むと好まざるとに関わらずだ。

ミステリーは旅行かばんに忍ばせるのには最適だ。ストーリーを追ってスルスル読める。何しろ本当の主人公は「事件」なのだから。
父親が探偵だったとはいえ、いきなりハードな事件に巻き込まれても動じない不思議など、おいといて、どんどん読める。ヤクザに脅されて、友情のためとはいえ、ますます事件に首を突っ込んで、よく頭が回転して、事件の核心に迫っていく驚異も何のその、スイスイ飛ばせる。
いや、けなしてるのではない。そのスピード感こそミステリーに必須なのだ。

「自立する女」「しようとする女」のなんやかんやが作者の女性としてのもう一つの命題だ、と解説にもあるが、そのために「主人公以外の登場人物・特に男がみんな馬鹿に見える」という見方も分からないでもない。
が、男が書いた「主人公が男の小説」に出てくる女はおよそ共通した「弱さと、強さとけなげさ」でもって男をたぶらかしたり、守られたりしているのと同じぐらい当然のことなのだ。
ちなみに筆者は強くてカッコイイ女は好きですぞ。

女性なら確実に作者の継続読者となる。好むと好まざるとに関わらずだ。


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作者名:桐野 夏生
ジャンル:ミステリー
出版:講談社文庫

顔に降りかかる雨(講談社文庫)