フィンランドの朝ごはんと言えば、おかゆだ。フィンランド語でプーロ(puuro)。オートミールやプーロ用の米をおかゆ状に茹でたもので、食感はもったりしている。甘いジャムをのせたり、あつあつのところにバターをのせて牛乳をかけたり、ときには砂糖とシナモンをかけたりもする。米に砂糖、シナモン、バターに牛乳!?と最初はびっくりしたが、なかなかこれが悪くない。このバージョンは、かつてはデザートだったというから、納得だ。
映画『かもめ食堂』にも登場するマーケット広場。
こちらでおかゆを探してみましょうオートミールのほうは、健康食品としても有名で、食物繊維、ビタミンやミネラルがたっぷり。オートミールを食べることによって、血中コレステロール濃度が低くなるという研究結果も報告されているらしい。と、ここまでくれば、日本だと健康美容食品として大いに宣伝売り出しされそうな勢い。
フィンランドでは、子ども向け番組のラジオDJ「マルクスおじさん(Markus-setä)」が、番組中子どもたちに「いいかい、子どもたち! 朝ごはんにはプーロだよ!」と呼びかけていたそうだ。プーロを食べて強くなりなさい、というメッセージ。フィンランドの子ども向け絵本をめくってみると、プーロを食べて元気満々の子や、食べろと言うなら絶対に食べてやらない!とプーロの皿を床に投げつけ、食べる前から元気満々の子もいる。
健康によし、美容によし、と満点食品のプーロ。でも、健康食品系にありがちなのだが、見た目が地味すぎる。正直に言えば、とても「美味しそう」には見えない。実際、ムーミン一家でも人気がないらしく、ムーミンやムーミンパパは、プーロが食卓にあがると、露骨にいやな顔をする。でも、ムーミンママは作った分がなくなるまで何度でも食卓に出すらしい(『ムーミンパパの思い出』より)。
探してみれば棚一面にならぶおかゆの数々ここまで書いて、横からフィンランド人のコメントが入った。「キミは、炊きたての白米を前にして、うっとりしているが、ボクにはその気持ちがまったく理解できない。ただ白いだけの米のどこがおいしそうなんだ!?」
うーん、ある文化コード内では非常にうまそうに見えるが、その文化コードを離れるとどうにも解釈のしようのない食べ物があるらしい。フィンランドに長く暮らせば、プーロを見てうっとりできる日が来るのだろうか? お米に砂糖とシナモンは許せない!と保守派に走るか、イタリア人が聞いたら仰天しそうな納豆パスタを生み出した寛容力と創造力で応じるか。お米の国出身者としては悩むところだ。