世間では40歳を過ぎてもなお、若々しい美貌を持つ女性は“美魔女”と呼ばれ、注目を浴びていると聞く。何を隠そう、私も10年以内にはその年齢に達するが、比較的若づくりなので、ここは敢えて「妙齢」であると言わせてもらうことにする。美しさと若さをキープし、将来は美魔女と呼ばれる事が目下の目標だ。
さてそんな折り、福島に天然の魔女がいると耳にした。
なんでもその瞳に魅入られそうになるとか……これはぜひ美しさにあやからなくては、と北に向かった。
森林限界
魔女の吐息?その魔女は、人里離れた山中にいるという。
福島市内から車で約1時間。森林限界が間近に見られる火山地帯に立ち入ると、ごうごうと噴煙が上がっている。辺りには強い硫黄の臭気が漂っていて、とても普通の人が住める場所には見えない。
まさかこれは魔女の吐息……? いや、そんなことを言ったら意地悪をされるかもしれないので、口には出さないでおく。
山の中腹に車を止め、道なき道をトレッキングすること1時間。ふと振り返ると霧が立ち込め、下界は真っ白に煙って見えなくなっている。
そんな中、巨大なアリ地獄のような吾妻小富士が雄姿を表し、なんだか荘厳な雰囲気が漂い始めた。いかにもなんだか出てきそうな……?
ここから先、道なき道を行く
アリ地獄…もとい、吾妻小富士
麗しき魔女の瞳ほどなくして山頂に辿り着くと霧が晴れ、一気に開ける視界。
目の前に広がっていたのは、吸い込まれそうなコバルトブルーの五色沼。通称、魔女の瞳。かつての火山の噴火口に水が溜まって出来た、火口湖だそうだ。この瞳の全貌を見渡すことができるのが、標高約2000メートルの一切経山。山頂への道は整備されているが、途中からは急に足場が悪く、荒涼とした風景になるうえに霧に巻かれていたので、魔女の美しさがひときわ身にしみるようだった。
太陽の加減で妖しく色を変える瞳に、15分ほど魅入られていただろうか。姿を見せたのはほんの気まぐれだったようで、すぐに霧のヴェールの彼方に消えてしまった。
ドラマチックな登場の仕方がなんとも心憎い、魔女との出会いだった。
美肌の湯が美魔女を作るのですやはり大自然の美しさは真似できるものではない、と山麓の高湯温泉に浸かりながらため息をついた。だが適度な運動に美肌の温泉、自然の中でリフレッシュ。
身と心の垢を落とし、少しは美しくなれたのではないだろうか。えっ、美魔女予備軍の写真はないのかって? それは秘密。古今東西、魔女はいつの時代もミステリアス、なのである。