フィンランドに夏がやってくると、市場が色とりどりに輝きだす。夏が旬のえんどう豆(Herne)に、いちごやベリー各種、野菜も色味が増してはちきれそうなみずみずしさ。そんな中でいつもマイペースなのは、今年で100周年を迎えたヘルシンキの老舗市場、ハカニエミマーケット広場のじゃがいも屋台。
こちらがハカニエミマーケットホール。
ホールと言っても広場、なんですねフィンランド人にとって、じゃがいも(perunaペルナ)は主食だ。レストランでメインディッシュを頼むと、大抵じゃがいもが付け合せとして付いてくる。それも、一個や二個じゃなくて、五個六個といっぱい食べる。魚フライの横には山盛りのマッシュポテト。ヘルシンキのトルコ料理店でケバブを頼んでも、お供は山盛りフライドポテト。保健所に貼ってあった食品栄養分類表で、じゃがいもは野菜ではなく、パン、米、パスタと同じカテゴリーに分類されていた。
『フィンランド語は猫の言葉』の作者稲垣美晴さんは、フィンランド人を「愛じゃが家」と称し、彼女自身のじゃがいもとのおつきあいを「じゃがいも愛憎記」として綴っている。
季節のフルーツ、いちごとベリーの屋台なんかも「最初の頃は、『生きるために食べていた』じゃがいもも、(フィンランド生活に慣れてくると)甘酢づけの魚にはじゃがいもは欠かせない、と人生の伴侶のような扱いを受けるようになる。台所でも、『お肉の横にはじゃがいもさん』と、鼻歌まじりで料理するようになると、じゃがいもとの仲もあつあつムードといったところだ。(略)食べようと思えば一山ぐらいペロリだ。もうこうなると、立派な愛じゃが家として看板がかけられそうだ。」
フィンランドのじゃがいもは、実際とても美味しい。種類も豊富で、茹でるとホクホクになるタイプ、フライドポテトに最適なもの、粘質でスープや煮込みにむいているもの、とよりどりみどり。特に夏に出る新じゃが(uusi perunaウーシペルナ)は素晴らしいお味で、朝一番掘りたて新鮮じゃがいもを買いに市場にやってくる人さえいる。ゆでたてももちろん、冷えてさめたのもなかなかのお味。フランスでは毎朝ベーカリーに焼き立てパンを買いに(勝手なイメージ)、フィンランドでは市場に新鮮じゃがいもを買いに、という具合だ。
真ん中にあるのが新じゃが・ウーシペルナ難点がひとつ。フィンランド人にはご飯と肉じゃがを一緒に出せないこと。え? フィンランドの料理でも、メインディッシュに付け合せじゃがいも、さらにパンやパスタを食べることだってあるでしょう? 日本人にとってご飯は主食、肉じゃがはおかず。でもフィンランド人にとって、これは両方主食、おかずなし、ということになるらしいのだ。