執筆者: 小玉.徹子
もやいだ霧の水滴が凍り、空気中の水蒸気が直接昇華して結ぶ小さな氷の結晶が、日光を乱射しながら冷たく澄んだ宙を舞う。 編まれた5編の短編はいずれもキリッと身が引き締まる厳寒の地にこそ見られるダイアモン...
なんてこと!!! 最後まで心を痛めながら読了となる。 受け取った感慨を大事に胸に沈めながら、本作が帰結しようとした着地点がどこにあるのか、探し続けたいところ。 手足を動かすことすらままならないハン...
表題から察するとおり「あちら」のお話しである。 日本文学史上に名を残す文豪、世界史の分岐点に立つ知識人の超常体験12話が収められている。文学者・三浦氏とジャーナリスト矢原氏の共著。体験者自らが筆にし...
短編4本。うち1作目の表題「動機」を総タイトルに編まれていることに納得する。 人心の奥底で発酵し、ついには理性のフタを弾き飛ばす「動機」。それら4つの動機がどんなことを誘発するか。4作それぞれの意外...
フレッシュ&ジューシー。チャーミング&キュート。そして、切なくて温かい。などいってもラブストーリーなんかでは決してない。 末期がん患者と向き合うドクターの話しだったり、内戦激するカンボジアの野戦病院...
「山岳小説」とくくられるのを著者は必ずしもよしとはしていなかったというが、「山岳小説」と呼ぶに最も相応しい作品群を遺した作家は他にないのではないか、と思えてならない。さすれば本作はぜひとも「山岳ミス...
いやいや、面白い!! 異様にヘビーな主題が、しかも複数折り重ねられる。その一つ一つがそれでけでもメインになり得る質量を備えている。それらが絡み合い物語りが構成される様は、色とりどりの絹糸がやがて、緻...
「解説」を読むまでもなく、実在の人物がモデルであろうことは、作品を読み出せばすぐに察せられる。昭和初期に登山家として名を馳せた加藤文太郎が実名で登場する。 無口で人付き合いが苦手、並外れて山足の速...
紛れもない「山女」の話である。岩壁を自在に駆け、銀嶺にスクッと立つ美しい雌カモシカ。あまりにもの清清しさに雄カモシカでさえ、その角を下ろす。 クライミング史上に足跡を記した実在の人物がモデルと聞け...
「山岳小説」であり「冒険小説」「青春小説」であり、ちょびっと恋愛小説かな? なんともチャーミングな作品。ひきつけられて一気に読んでしまう。 背景を「山岳」に求めたという生半可を越え、山々はあくまで...
厳冬の北アルプス北穂高、前穂高、奥穂高岳登攀の描写は著者もまた相当の「山屋」ということを言わずもがなで語っている。恐ろしく「山岳小説」であり、幾分やっかいでしんきくさい「恋愛小説」であったりもする。...
事故でもなく疾病でもない。いわれなき犯罪によって肉親を失った家族のグリーフワークは家族のその後の人生を変えてしまうほどに困難を極める。メディアの餌食にならざるを得なかった心傷も想像を超えて深い。外側...
表題から想像してかかると肩すかしを食らう。富士登山の話ではない。富士山頂に「測候レーダードーム」を建設するという難事業の成るまで。実際に昭和39年に竣工された実話を元に、その上著者が当事者でもあった...
誰がメインキャストで、何のお話なのか?惑わされてはいけません。あくまでも表題「縦走路」をお忘れなきよう。 2月・厳冬の「八ヶ岳縦走」。紛れもない冬山を「ヤル」ということのなんたるか。厳しくも美しく、...
「あっさり」に過ぎるのでは、と思える文体だが、少し読み続ければそのなぞは解ける。 過度な表現を抑え、綿密な取材で足跡を追いながら、事実を超えた人の真実を伝えるに必要最小限が著者の視線で語られる時、読...
超スローピッチ。はっきり言ってキツイ。シンドイ。幾分ダルイ。 が、なぜか辛抱して読んでしまう。 こめかみの奥で行き場を失った土石流のように血管がドクドクと音を立てる。後頭部を内側から圧迫されるような...
時は1972〜1995年の長きにわたって背景となる。中国が文革から民主化へ路線をシフト。日・英・米の対中関係の利害と外交政策が絡む。同時期、英はアイルランド紛争に頭を抱える。 政治・経済の裏舞台で暗...
これはまた、行き帰りの通勤電車のお供に特におすすめである。息もつかずに読めるといって、時々はいやおうなく読みに切れ目が入った方がいい。そうでもしないと虚実の境目を見失う。それほど「医」の表裏・真偽を...
ピッチの早いサスペンスを期待してはいけません。 最後まで警察官も刑事も探偵も登場しなければ、殺人事件も起きない。死人も出ない。 光源とはすなわちライティング。「映画を創る」裏舞台のお話。 テンポが...
「炊事・洗濯・裁縫、なんでも自分でやります。ほんと、家でも手のかからない亭主ですよ」 自分のことは自分で、が山男の原則と鈴木さんは笑う。 たとえばヤッケがほころんでいたとして、決して女房に頼んだ...