【特別新連載】おそうじマン日記(その3)


osouji_01.jpg

※前回へ

二日目。「こんにちは、こんにちは」と言いながら、保育園の玄関に入っていきました。
五〜六人の園児が、白目をむいたり知らんぷりをしたりしました。
靴を履き替えていると、バタバタッと元気な足音がして、私の前で止まりました。昨日の男の子です。
ここまでは昨日とそっくり同じ。
男の子は、三歳になりたてぐらいで、元気はつらつ、見るからにいたずら好きそうな顔をして、らんらんと目を輝かせ、私を足の先から頭のてっぺんまでじろりと眺めました。
「こんにちは」
と私が言うと、男の子はにやっと笑い、あごをつきだして言いました。
「おしりたれーっ!」
「?!」
赤くなった私を見て、男の子は大喜び。ぴょんぴょん跳んで、
「やーい、やーい、おしりったれーの、おしりたれーっ。あっかんべえーだよーん」
おしりを向けてペンペン叩き、パッと駆け出したそのときです。
「こらっ!」
主任先生の声がふってきました。
「ごんた君、待ちなさいっ。謝りなさいっ」
とたんに、気をつけの姿勢になった男の子は、
「ごめんなさい……」
と、目に涙をいっぱい浮かべて言いました。

二階の掃除を始めてまもなく、まりちゃんが一人で通りかかり、優しい目をして立ち止まり、にっこり笑って言いました。
「ありがとう」
よっちゃんはまた教室の前で立っていて、
「つかれない?」
と、近寄ってきました。
「大丈夫ですよ」
「でも、つかれたら、どうするの?」
「一息つくと、おさまりますよ」
「でも、またつかれたら、どうするの?」
休まず掃除機をかけている私の周りを、ペンギンのようにかかと歩きをしながら、頭をふりふりついてまわって話し続けます。
「わたし、おばあちゃんっ子なのー。ふたごのおねえちゃん、うまれたときびょうきだったから、わたしだけ三さいまで、おばあちゃんちにいたの。だからー、おばあちゃんだいすきなんだー」
と、背中に飛び乗ってきました。
私は、よたよたっとなりました。よっちゃんは大きな子です。体重も保育園で一番重そうです。そのよっちゃんを首にしがみつかせたまま、ゆらゆらしていたら、おばあさんが口ずさんでいた歌が口から出ていました。

〜この子は かたい子ー
 川へ流そうか どこへ流そう
 あんまりかわいそうで 流されん
 ほんでも いっぺん流しましょう
 どんぶらこー どんぶらこー

「一、二、三、四、五、六、七、八、九、十。おまけのおまけの汽車ぽっぽ、ぽーっと鳴ったらかわりましょ」
すると、それにあわせてよっちゃんはぴょーんと降りて言いました。
「よっちの、パワー、いった?」
私は、ガッツポーズをしました。
それから、時間割表どおりに仕事が進み、二日目も、あっという間でした。(つづく)

絵・稲葉 美也子