【特別新連載】おそうじマン日記(その2)


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※前回へ

ため息をついて掃除に戻ると、きく組の前に女の子が一人立っていて、こちらをじっと見ています。ゆっくりそこへ近づいて行くと、その子はニッと笑いました。
「わたし、立ってるの……。わたし、なんにもしてないのに、せんせいがおこったから……。おばさん、いそがしいんだねえ。手伝ってあげようか? おうちでいつもお手伝いしてるから、わたし、じょうずだよ」
「まあ! ありがとう」
そのとき、教室の中から先生の声がしました。
「よっちゃーん。おかたづけできたのー?」
「まあだー」
「はやくしなさーい」
「はーい」
よっちゃんは、教室に入ってしまい、廊下には誰もいなくなりました。よっちゃんの優しい気持ちで、私はまた元気が出てきました。
 
続けて玄関ホール。右へ曲がり、大ホール前から給食室前まで。
その次のサンルームでは、おやつを食べた園児がうがいをしたり、カップを洗って、お盆にふせたりしています。
掃除機をかけようとすると、年長さんらしい女の子が、
「ねえ、いままでのひと、どうしたん?」
と、聞いてきました。
「辞められたのよ」
「なんで?」
「もうすぐ赤ちゃんが生まれるそうよ」
「赤ちゃん生まれたら、なんでおしごとやめるの? わたしのママなんか、いもうとも赤ちゃんもつれて、ほいくえんきて、それからおしごといって、おしごとやめんよ。ねえ、なんで?」
「……」
そこへ男の子がとんで来て、女の子に話しかけました。
「えっちゃん、あのね、ぼくね、おとなになったら、えっちゃんとけっこんするって、大くんにいっちゃった。てへへ……」
「んもうっ! わたし、あんたなんかきらいなんやし、そんなこといわんといて!」
「じょ、じょうだんだよー」
「あんたなんか、だいっきらい!」
バシッ!
女の子は、男の子の頬を思いっきりたたきました。
「わあーん!」
先生が顔を出しました。
「なに?泣いとるが? 男のくせに」
「う……ぐしゅん」
私は、はらはらどきどき、園児の間をぬって、なんとか掃除をすませました。
次に大ホールに掃除機をかけて、ごみと掃除機をしまい、ポットと食器を集めて給食室へ。洗い場を手伝って、あとは二階の和室です。

大ホールの前を通ると、いつのまにか園児の姿はなく、教室にも人影は見当たりません。
廊下を左へ曲がると、かわいいおしりが見えました。「おしっこたれ」と言ったあの子が、先生に着替えを手伝ってもらっています。
男の子は、はっ?! と固まって、それから、しまったとなんともきまりの悪そうな顔になり、でもすぐにぴょんぴょん走り回って、隠れ場所はないかと、てんてこまい。 が、もう間に合いません。だらりと手を下げ、顔だけ先生の背中にくっつけました。
そのあわてぶりがあんまりかわいらしくて、私は思わず吹きだしました。だって、今日半日の間に、私に向かって、十回もおしっこたれって言ったのですから。
今度会ったらなんと言うのでしょう?
疲れがすーっと取れていきました。(つづく)

絵・稲葉 美也子