【特別新連載】おそうじマン日記(その4)

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三日目は、玄関でごんた君が待ちかまえていました。
「こんにちは」
と私が言うと、
「おそうじ、がんばってね」
ごんた君がとても素直に言いました。
あっけにとられていたら、私をのぞきこみ、
「べろべろ、ばあーっ! があーっ!」
と、さらに大きく口を開け、
「きゃあーっ」
と笑って、すっとんで行ってしまいました。
掃除を始め、階段でごみをちりとりに取っていました。
ことりと音がしたので顔をあげてみると、まりちゃんが手すりに手をそえ、優しい目をして見つめていました。
「ありがとう」
そうしてにっこり微笑みました。
そのまなざしといったら、ほかに例えようがありません。私はとろけそうになるぐらい、安らかな気持ちになりました。
よっちゃんは、教室の前にまた立っていて、私が掃除機をかけながら近づいて行くと、黙って飛びついてきました。
私はしっかり抱きとめて数えました。
「一、二、三、四、五、六、七、八、九、十」
よっちゃんは、ぴょんと降りました。
それからは、いつでも私を見かけると、
「せんせーっ」
と呼びながら、どどどどどっと走って来て飛び上がって抱きつき、時には、手や足を上げてバレリーナの真似をしたりしました。

不思議なことに、毎日同じ場所で、同じ時間に、ごんた君とまりちゃんとよっちゃんに会う日が続きました。
十二時半に玄関に入ると、ごんた君が忍者のしぐさをしたり、ふざけたり、百面相をしたりして笑わせてくれます。その身振り手振りがあんまり面白くて、顔がすぐに元に戻らないほどでした。
ほかの園児は、あいかわらず知らんぷりしたり、すれ違ったときに先生に見つからないように小さく舌打ちしたり、「おしっこたれ」とか言いましたが、そんなことは苦になりません。大好きな三人に出会えたのですから。

ある日のこと、玄関に入ると、ごんた君が床に寝転んで、見慣れない女の人にひざまくらをしてもらっていました。
ごんた君と目が合うと、ごんた君は、何気ないふうに寝返りをうって、女の人のひざにそうっと頬ずりをくり返しています。その横顔からは、喜びでいっぱいの心が伝わってきます。
女の人も、それはそれは優しい顔をしてごんた君を見守っています。なんという幸せそうな二人でしょう。
けれども、とても気になりました。このときはお昼の休み時間。園児が、あっちへ行ったりこっちへ来たり、せわしなく行きかっている真ん中なのですから。
どんなわけがあるのでしょうか。
 
あるとき、ごんた君がやって来て、
「バンソーコウある? ここいたいの」
と、ほんのちょっと血の付いた指を見せました。
「あるけどロッカーの中なの。ちょっとここで待って。すぐ取ってくるから」
「ぼくもいく」
と、ごんた君もついてきました。
ごんた君の指にばんそうこうをはり、急いで戻ろうとしたちょうどそのとき、山川先生がいらっしゃって、
「あらっ。ごんた君、なんでこんなところにいるの? 休み時間じゃないでしょ。教室へ戻りなさいっ。なにしてるの」
ごんた君は、あわてて走っていきました。
私は、ごんた君がどうしてここにいたのか説明すればよかったな、と少し後悔しましたが、それっきりこのことは忘れてしまいました。(つづく)

絵・稲葉 美也子