サンタさん登場はクリスマスとは限らない?

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バザールの様子。すべて「お正月」用
・サンタクロースの帽子
・白い綿
・風船20個
・モール(金、銀、紫、赤、他)
・電飾
クリスマス直前のある日、同僚から渡された買い物リストを見て、僕は首をひねった。今僕が暮らしているのは、中央アジアのウズベキスタン共和国。国民の9割近くがムスリムだというイスラム教国だ。イスラム教と言っても、ウォッカをはじめとした酒類が多く出回っているし、断食月の日中に飲み食いしても咎められるようなことはない、世俗的な国ではある。ロシア系住民を中心に、キリスト教徒も多少はいるから、バザール(市場)に行けば電飾や飾り物くらいは売っているかもしれない。
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コカ・コーラの看板には
新年のメッセージとともにサンタクロースが
それでも、同僚や、職場を訪れる学習者たち(僕の職場は街で唯一の日本語教育機関だ)のほとんどはイスラム教徒だ。クリスマスを祝うムスリムなんて、僕は聞いたことがない。
同僚に、「何に使うの?」と尋ねても、「パーティだよパーティ、当たり前じゃん、穣も来るでしょ?」とつれない反応。この同僚、ムスリムだが、どうやらヨーロッパの文化にかぶれているようだ。いいよ、わかったよ、何だか知らないけど、買ってくるよ。
サンタクロースの帽子なんて、バザールで見たことがない。探したこともないけれど、無かったら無かったで、まあいいか。そんな、少しささくれたような気持ちを抱きながら、僕はバザールへ向かった。

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正月を間近に控えた広場
だから、いつも行くバザールで、いつもと違う光景を見た僕は、心底驚いた。バザールの景色は、一週間前とは一変していた。普段は店が出ず、空き地になっている場所にまで、ところ狭しと出店が並んでいる。そして、売り手の掛け声と、買い手が品定めする視線とが交わる先にあるのは、大きなモミの木や電飾の数々、洒落た包装を施されたワインや菓子類だった。サンタクロースの衣装もある。
さらに驚くことに、そんな「クリスマスグッズ」に群がっているのは、ほとんどがムスリムであるはずのウズベク人たちである。イスラム教の国で見た、予想外の「クリスマス商戦」。僕は戸惑いながらも、サンタクロースの帽子を選び、モールを物色し、なんとか頼まれた買い物を済ませて職場へ戻った。

買い物から戻ったことを同僚に報告すると、彼は笑顔で言った。
「ありがとう穣、これでニューイヤーパーティがさらに楽しくなるよ」
ニューイヤーパーティ?

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バザールに登場したツリー。
正月が近づくと、町中にツリーが登場する
クリスマスが過ぎると、状況はさらにはっきりとしてきた。バザールに並んだ「クリスマスグッズ」は、クリスマスが過ぎても撤収される気配はない。それどころが、さらに売り買いの熱気が増していた。そのころになると、街中のいたるところに、きらびやかな電飾をまとったモミの木や松の木が登場した。
「2011」と書いたボードを持って、町を練り歩くサンタクロースもいる。
そうなのだ。この国の正月は、電飾で飾られたモミの木と、赤い服を着た白ひげのおじさんで彩られている。
そして迎えた2011年1月1日。ツリーの最上部に飾られた三日月――そう、ベツレヘムの星ではなく、イスラムの象徴たる新月――が、ひときわ強く輝いた。