釧路までの列車の中で、心も体もすっかり旅モードになった。もちろん、胃も準備万端。目指すは釧路ししゃも。ししゃもは世界中でも北海道南部の太平洋沿岸の一部でしか獲れない非常に貴重な魚なのだ。
いわしのごときししゃもの天ぷら
鮎のごときししゃもの塩焼きさっそく、釧路市内の居酒屋「ふぐ亭」に向かう。旬の活素材を店内の大きな生簀に保存し、いつでも新鮮な旬の味覚を味わうことができるという。まずは塩焼きでいただくことにする。「鮎の塩焼き」とみまがうサイズぶり。脂が多すぎず少なすぎずふんわりと口の中にひろがる風味。素材そのものがよいと、シンプルに手軽にいただくのがいい。お次はふぐ亭おすすめの天ぷらで。口に含むともっちりととろけるような感覚とともに甘みが押し寄せてくる感じ。ししゃもがこんなに豊かな味わいを持つ魚だったとは!
完全にノックアウトである。
釧路といえば外国と見まごう湿原もししゃもが貴重なのは、漁期が約1カ月と短いためでもある。「ししゃも荒れ」と呼ばれる木枯らしが吹くと、ししゃも漁がはじまる。河川へ遡上するために沿岸に集まってきたししゃもを漁獲する。この時期、ししゃもの身は脂肪分が抜ける。メスは卵を持っていていわゆる"子持ちししゃも"となり、商品価値が高くなる。ししゃもの産地としては胆振管内の鵡川町が有名だが、実は十勝・釧路管内のししゃも漁獲量は近年では全道の漁獲量の大半を占める。
とはいっても、北海道産ししゃもは1300トンほどしか漁獲されていない。だから、とても本州の居酒屋に出回る量ではないのだ。実際、全国販売の北海道産ししゃもの割合は10%以下だという。本州でみかけるししゃもの正体はカラフトシシャモと呼ばれる魚。北海道にもわずかに生息するが、主にノルウェー、アイスランド、カナダから輸入されている。北海道のししゃもが海と川を行き来する回遊魚であるのに対して、カラフトシシャモは海産魚なのでほぼ1年中漁獲できる。カラフトシシャモも美味しいが、やはり本物の風味にはかなわない。
ししゃもを漢字で書くと、「柳葉魚」。北海道が蝦夷と呼ばれていたころ、狩猟採集で生活していたアイヌ民族が大飢餓にあった。困った人々が神様に大漁祈願をしたところ、神様は河畔の柳の葉をつまんで川の中へ。すると、今まで静かだった川面がにわかに騒がしくなり、突然その形も柳の葉に似た小魚が川一面に湧き上がった。そして彼らを飢餓から救ったという。アイヌ語で「シシュ」は柳の葉、「ハモ」は魚を表す。
市民の台所・和商市場
釧路産のししゃもたち地元の和商市場に立ち寄って、ししゃもを買って帰る。これ、ホントにししゃも!?と思わずため息。ししゃもとは思えない堂々たる姿に感動。小さい魚だが、まったく油断ならないのであった。