寒い冬は温泉にゆっくりつかり、ふにゃふにゃになり、畳の部屋で美味しい会席を食べる。
冬の日本ならではの最高のお楽しみ。ひと冬に1度は敢行したいプライベート・イベント!のひとつだ。
本日の会席は、「春を愛でる精進料理」。
「精進料理」の精進は、仏道修行に努めること。その精進の実践方法の中に、殺生を戒める仏教の教えがあり、穀物・豆類・野菜などの食材だけの料理を肉や魚に見せかけた「もどき料理」が精進料理。また、食材の味を生かすため、調味料の使用を抑え、また食材を余すところなく使い切って無駄を出さない事こそが精進料理の基本だそう。
肌寒い冬の温泉日和。「元湯に入り、春を待ちわびる食事の企画があるよ」と友達から誘われてくり出したのが6万坪の敷地を誇り、日本最古の温泉と言われる有馬の元湯が楽しめる古泉閣。八角堂の湯場には、白い銀泉「通常色の単純湯」と有馬特有の赤い金泉「鉄分が含まれた赤いお湯」がある。
金泉には「湯あたりする場合がありますから、5分ぐらいの入浴に抑えてください」と注意書きがあるほど、茶褐色のお湯がこんこんとかけ流れている。湯船は錆の色のように褐色に変色するほどお湯が強い。
「あ〜気持ちいい、最高!」
自然と口から出てくる言葉は心の底から、身体全身からの言葉と言える。その後は、仕事のこと、恋のこと。女3人集まれば何とやら…尽きないお喋りにお湯の中にも花が咲く。お湯に入ると消耗して、お腹も自然と減ってくる。
ポカポカした身体で広大な庭を散歩。時折吹く冬の風が心地よい。
通された食べ処「慶月」。 まずは、混ぜて食べてくださいという、ねり羊羹の入った前菜。
「まごま」がまぶされた豆腐。ふきのとうの味噌和え、わらびの入ったお吸い物、ごま豆腐、ゆばの豆乳鍋、近辺である丹波の黒豆、とろろそば、山菜の皿、竹の子とタラの芽と豆腐の天ぷら、生姜の茶粥とデザートの果物…と続く。
ひとつひとつが、眼で楽しめ、丁寧で繊細なお味。寒くて暗い山中の宿だが、お皿の上には「すぐ桃色の春が待っているよ」メッセージが踊っている。まさに「冬来たりなば、春遠からじ」を表現したお膳立て。
粋だな〜
ゆっくり、次々に運ばれてくるお料理に舌鼓を打って、再び広大な日本庭園に出ると、黄色い月夜が 夜空にぽっくり現われた。
なぜか「おぼろ月」と見えるのは、いただいたご馳走のなせるわざに違いない。
帰りはキラキラ神戸の街の夜景を眺めながら、湯あたり、胃袋あたり、いっぱいいっぱいの身体の心地よさに酔いながら、山道のカーブを車で走らせた。こんな冬の贅沢は日本しか味わえないものだよねと何度も3人でうなずき合い、また来ようね、と何度も言い交わしながら…