南半球のアルゼンチンは今夏真っ盛り。しかし今回は「冬の食の楽しみ」にぴったりのお料理で、ブエノスアイレスの祝祭日に欠かせない一品を紹介したいと思う。
それはアルゼンチン北部の郷土料理「ロクロ(Locro)」。一言でいえば、豆類、トウモロコシ、野菜類に豚のすねや胸肉、牛の胃袋、チョリソ(腸詰め)など肉のモツ系を加えて弱火でじっくりと煮込んだシチュー。
ロクロは、アルゼンチン北西部では日常的に食べられる料理だが、首都ブエノスアイレスでは5月25日の革命記念日や7月9日の独立記念日などの国の祝祭日に振る舞われる一品である。
季節が日本と真反対のブエノスアイレスでは革命記念日や独立記念日を祝う5月?7月は寒空が広がり、まさに「冬」。ロクロのアツアツ感がたまらない季節でもあるのだ。
「は?!」と混乱された向きに、お話しをちょっと整理。つまり…
日本は今、冬。だが南半球のアルゼンチンは夏。なので、アルゼンチンの「冬のイベント」と「冬の食」は日本の初夏から夏の期のそれに該当する、ということ。
おわかりいただけたでしょうか?!
そのような国民の祝祭日は家族や友達が家に集まってロクロをいただくのが伝統的な過ごし方。1810年に独立宣言が行われた大統領府前のプラサ・デ・マヨ(五月広場)での様子や大統領演説をテレビで見ながらロクロを真ん中に食卓を囲む。
さて「ロクロ」という言葉はインカ帝国時代の公用語ケチュア語からきている。つまり、ロクロはスペイン統治時代よりも前から存在しアルゼンチンの国よりも長い歴史を持つ。
何千年の時間の流れのなかでこの大地に生きた人びとが親しんできた一品、そう思うと一層感慨深い。国のお祭りの日にいただく、というのも納得する。
あったかロクロに地元の赤ワイン。思いっきりアルゼンチンな組み合わせを、思いっきりアルゼンチンな日にする。
ブエノスアイレスで祝祭日以外にロクロを目にするのは稀だが、筆者などはその味にやみつきで、ブエノスアイレスから1時間半ほどのところに位置するフェリア・デ・マタデロス(Feria de Mataderos)に行く度にロクロを味わっている。
フェリア・デ・マタデロスは毎週日曜日に開催され、アルゼンチンの伝統工芸品を売る店が並んだり、フォルクロールを踊ったり、ガウチョ(南米野カウボーイ)の見世物があったりとアルゼンチンの伝統的なものや典型的なものを楽しめる青空郷土市場のようなところ。家族や友達と日曜日を過ごすのにうってつけの場所であり、そこでは祝祭日関係なく郷土料理ロクロが楽しめる。
そのロクロ。あえて注意点を挙げるとすれば、それだけでも十分お腹がいっぱいになるので他の料理も食べたいと欲張っては胃がもたない。またカロリーがかなり高いためダイエット中の人は他での調整がいるかも。と言いつつやめられないのがロクロの魅力なのだが…