「年越し蕎麦」と聞くと、たぶん多くの人は温かいお蕎麦をはふはふズルズル…というイメージをするかもしれませんが、福井の人は冷たい「おろし蕎麦」を食べます。
この「おろし蕎麦」だけをいえば全国にいくつもあるのですが、「越前おろし蕎麦」のように大根おろしを薬味として扱わずダシ汁として食す方法は唯一の存在なのだそうです。蕎麦の産地であり、蕎麦屋も多い福井の人にとってこの存在はとても身近です。県民は蕎麦打ち体験の機会にも恵まれ、道場と称する場所も県内各地にあります。また、趣味が高じてお店を開いたり、自称セミプロを名乗ったりする人も多いですね。
我が舅もその一人。しっかり蕎麦打ちセットまで購入し、年末にはその腕前を披露します。でも、こういう人って別に稀有な存在でもなく、福井では餅つきさながら自宅で打つ人って多いんですよ。
そんなわけで年末には親戚一同、我が家に集まって蕎麦打ち大会。セミプロの舅に習いながら蕎麦打ちを楽しみます。蕎麦打ちの流れは、大まかに説明して次の通り。
まず蕎麦粉に適量の水と練りを与えて蕎麦玉にした後、麺棒を使い麺体を大きくのしていく作業に移ります。
そして麺体をだいたい1.5mmほどの厚さにのばしたら切っていくのですが…均一に細く切っていくのは至難の技。結果、仕上がりは不揃いで見た目にも悪いのですが、そこは手打ちの御愛嬌でしょう。ゆで終わったら冷水できりりと引き締め、ネギなどの薬味とおろしダシをお好みでぶっかけます。このおろしダシは普通の大根でも良いのですが、通は辛味大根を好みます。これは非常に辛味が強く、なめてかかると少量でもワサビを大量に摂取した以上に大ダメージを受けます。
しかし通に言わせれば、辛味だけでなく旨みと甘みがあり、蕎麦との相性は抜群…なのだそうです。水の量、練り、のばし等により、打つ人によってさまざまな変化を遂げる蕎麦。素人が打つわけですから当然失敗作もあります。しかし、皆で一生懸命作った、という手打ちの楽しさは何物にも代えられません。昔から、蕎麦は「挽きたて、打ちたて、ゆでたて」の3条件が揃ってこそおいしいものができるといわれるように、その場で打ってゆでて皆で食べる、という年越しの仕方もなかなかおつなものですよ。