氷河の氷はどんな味? パストゥルリ氷河探訪記


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誰でも簡単に登れそうな、緩やかな山道。
しかし標高5000mの世界はそう甘くはない。

「今年は雪がすごいよ。そっちはどう?」
日本にいる友人からこんな便りが来た。日本の冬は寒いだろうなあ、雪がすごいってどれくらいだろう?しかし友よ、こちらは今夏で、雪とは縁がないのだよ。でもアンデスに行けば、夏でも万年雪を頂く美しい山々がたくさんあってね…
そう言えばあの氷河を訪れたのはいつだったか。雪こそ降ってはいなかったが、いやいや、あそこも寒かった…と、2007年に訪れたパストゥルリ氷河の事を思い出した。
「登山初心者でも簡単に行ける標高5000mの氷河がある」と聞き、訪れたのがペルー中央高地の街ワラス。


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もう足が動かない… 
氷河を目前にして座り込んでしまう人も。

ここからパストゥルリ氷河のすぐ側までツアーバスで行けるという。光り輝く白銀の万年雪にどこまでも透明な氷河。ここでふと思う、「はるかな時を経てできた氷河の氷って、いったいどんな味だろう?」単純な私は標高5000mが意味することなど何も考えず、嬉々として氷河に向かうオンボロバスに乗った。
数時間後、バスを降りたその先に、黒い岩山の頂きに鎮座する白い巨大な氷河が見えた。あれがパストゥルリ氷河だ!雪山登山を覚悟していたのにきちんと歩道まであり、これなら本当に初心者でも大丈夫だな、と氷河を目指して歩きだした。
ところが、足が動かない。気持ちははやるのにまったく前に進めない。高山病の薬のおかげで体調は万全、健康そのものだ。


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真っ白に見えた氷河も、随分溶けてしまっている。
地球温暖化の影響だろうか。

しかし1歩2歩は歩けても、3歩目が踏み出せないのだ。元気なのに身体が重い、息苦しい、これが5000mの世界なのか!
さ、酸素が欲しい…。
やっと手に入れた氷河の氷! 登山どころか運動嫌いの私は、地獄坂の如く立ちはだかる数百mの道のりを氷欲しさにほとんど泣きながら登りきった。「氷、氷」もはや執念である。

そしてついに氷河に到着。真っ白に見えた氷河だったが、近くで見ると意外に薄汚れていた。仕方無くケーブにできていたツララを折って、その氷を口にしてみる。
うっ、痛い!
口の中がイガイガする。こんなに硬い水は初めてだ。日本の石清水のようなまろやかな味を期待していたのに、これに比べればコントレックスなんて軟水のようなもの。しかし、これまでの道のりを考えると一口で捨て去るなんて到底できない。
結局ミネラルウォーターで口直しをしながらその氷を無理やり食べきったら、せっかく登りで温まっていた身体が冷えてしまい散々だった。



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やっと手に入れた氷河の氷!


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氷河と麓の村の気圧差で潰れたペットボトル。
どうりで苦しかった訳だ。


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お皿からはみ出さんばかり
に注がれたスープ。
心も身体もほっとする時間。

その帰り、麓の食堂で飲んだスープのなんと旨かったことか!滋味豊かで素朴なアンデスのスープ、これがこの大イベント?!一番のご馳走だった。
ああ、それにしても今年のリマは暑い。登りは億劫だが、今ならまたパストゥルリに行ってもいいな。もしかしたらあの氷河の氷も、夏のリマならもっと美味しく感じるかもしれない。グラスの中で溶けていく冷蔵庫の氷を眺めながら、暑いリマで寒いパストゥルリに想いを馳せるのだった。