10月に入るとパン屋やケーキ屋の店内には
色とりどりのスカーフが飾られ、マサパンが売られ始める10月9日のバレンシアはお祝いムード一色だった。というのも、1238年、征服王ハイメ1世がそれまでバレンシアを占領していたイスラム教徒を追い出し、現在のバレンシア市内に入城したのが10月9日で、この日は「バレンシアの日(el Día de la Comunitat Valenciana)」と呼ばれる祝日なのだ。街では英雄ハイメ一世について学ぶ子ども向けの劇やバレンシア出身の作曲家による演目を並べたコンサートが開催され、前日8日の夜には大々的に花火が打ち上げられた。そして9日は一日中パレードが行なわれていた。
また、10月9日は「サン・ディオニシオの祝日(la festividad de San Dionisio)」にもあたる。 ディオニシオが恋人たちの守護聖人だったことから「恋人の日」と呼ばれている。
スカーフに包んだマサパンを披露する友人10月のバレンシアを訪れたことがある人は、パン屋やケーキ屋の店内に色とりどりのスカーフがぶら下げられているのを目にされたことがあるだろう。「パン屋がスカーフ屋を兼業?」などととぼけた推測をしそうなものだが、サン・ディオニシオの祝日には、男性から愛する女性にスカーフで包んだ小さなマサパンの詰め物セットを贈る習慣がある。
マサパンはアーモンド、砂糖、黄身でつくられたスイーツで、スペイン・トレドの名物として何度か味わったが、まさかこんなところで恋人たちの愛の告白の一助を担っていたとは!ハイメ1世がバレンシアに入城した際、女性たちが感謝の気持ちを込めてスカーフに包んだ野菜や果物を贈ったという言い伝えから、恋人の日に贈られるマサパンはバレンシアの産物である果物や野菜の形をしている。恋人の日に使われるマサパンはla Mocaoràと呼ばれるが、その由来はバレンシア語のMocaor(スカーフ)。愛する人にスカーフで包んだスイーツを贈るなんてバレンシア流バレンタインもなかなかしゃれている。
野菜や果物の形をした恋人の日のマサパンは
la Mocaoràと呼ばれる
バレンシアの日の前夜(8日夜)からは、
旧市街でムーア人とキリスト教徒の戦いを再現した劇なども披露されていたさて、お祝いモードの10月9日が終わるとパン屋に飾られていたスカーフは姿を消し、時を同じくして、他の店ではスカーフの売り出しが始める。秋が到来し始めたからだが、それらで目にするスカーフにOferta(セールス)の看板がかかっているのを見ると、どうしても恋人の日の売れ残りかと疑ってしまう……のは筆者のロマンティズムが欠けているのだろうか。