お花見はいかが
私が以前駐在していた上海支社には、優秀な中国人社員を日本に派遣し、研修させるという制度がある。彼らは私の顔馴染みなので、やってくると日本を案内しがてら異文化交流を楽しむのが常だ。
さて、研修生の中に好奇宝宝(hao4qi2bao3bao3)と呼ばれている子がいる。中国語の意味の通り、なんでも知りたがる好奇心旺盛な子だが、残念なことに帰国が決まってしまった。日本で桜を見たかった! と残念がっていたが、この時期はまだお花見には早かった。 いや、待てよ。あそこなら……
ということで、京浜急行から発売されている「三崎まぐろきっぷ」を購入し、三浦半島に向かった。
城ヶ島の海
京浜急行久里浜線の最終駅、三崎口駅(ちなみに本線は浦賀が終着)には河津桜が咲き乱れていて、一足早い春の訪れを感じる。ひとしきり花を愛でた後、三崎港から対岸となる城ヶ島に向かった。
城ヶ島は私も初めてだったが、特徴的な地形もさることながら、海が綺麗で驚いた。また青く透き通る海は、上海から出たことがない彼らにとって初体験だそうだ。というのも、河川から泥が海に流れ込むせいで、中国の海は濁っている。上海行きの機内から外を見ると、中国に近づくにつれ海が変色していくのがわかるくらいなので、城ヶ島は彼らにとって貴重な磯遊びの機会になったと思う。
貝が含まれた、とても綺麗な砂
アメフラシ、受難の時
海が綺麗ということは、生き物を見つけやすいということでもある。好奇宝宝が座り込んで何かしていると思ったら、体長15cmにもなるアメフラシを見つけたようだ。アメフラシには大変迷惑な話だが、日本の海の生き物代表として、しばし戯れさせてもらう。実は私もアメフラシを見たのは初めてで、彼らと同様に自然との出会いを楽しんだ。
美味! メバチマグロ丼
さて、これだけ目一杯遊ぶと、お腹も鳴るというものだ。「三崎まぐろきっぷ」の食券が使えるお店に入り、マグロ丼を注文する。
このマグロ、一見すると普通の赤身で、大トロのように脂が多くないのに、口内の温度で柔らかく溶けて美味。これは近海でとれたメバチマグロだそうで本マグロより美味しいだろ? と、地元の漁師さんが自負するだけのことはある。
と、好奇宝宝が唐突にこんなことを言い出した。
「先輩、日本には女体盛りという物があるそうですね。どこで食べられますか?」
……貴様は一体、日本で何を勉強していたのだ。好奇心旺盛にもほどがある。
「あれはお大尽の遊びで、庶民には縁のない遊びだ」
と、苦し紛れに伝えておいたが、間違っていないだろうか。間違っていると思います。
この一日が、日本のいい思い出になるよう願ってやまない。
三浦半島の自然に、美味しいマグロに、異文化との出会い……
あ、異文化とは出会ってないので、決してお国では思い出として語らないように。