冬の終わりはカーニヴァルの仮装と伝統菓子

キリスト教の国では、カーニヴァルで冬の終わりを感じるもの。イタリア語では“カルネヴァーレ”と発音する。


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白い仮面のピエロ

“カルネヴァーレ”とはそもそも“謝肉祭”のことをさす。語源はラテン語の“carnem levare/カルネム・レヴァーレ”が“carne-vare/カルネ・ヴァーレ”となったとされる。その言葉のもつ意味は、“肉(carne/カルネ)よさらば(vare/ヴァーレ)”。
キリスト教の習慣のうち断食にあたる“四旬節”に入る前に行う祝宴“謝肉祭”のことをいう。
期間は国により異なるがほぼ1週間。ただし、最終日は四旬節の初日“灰の水曜日(復活祭の46日前)”の前日の火曜日(martedi grasso/マルテディ・グラッソ)までとされる。
ヴェネツィアでは、例年、週末を2回はさんだ10日間ほどをカルネヴァーレ期間としている。

ヴェネツィアのそれは世界的にも大変有名で、仮装をする人々が町を練り歩く。歴史的建造物だらけのこの町は、普段からタイムスリップしたような感があるが、カルネヴァーレのこの時期は、中世の格好をした人々があちこちをそぞろ歩きするため、さらに幻想的な雰囲気が街じゅうに漂うもの。


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ヴェネツィアの伝統衣装、ベストの医者

今年のカルネヴァーレは2月14日から24日まで。期間を通して天気にも恵まれたこともあるのか、例年以上に多くの人がこの地を訪れた。

特にヴェネツィア最大の観光スポット、町のシンボルといえるサンマルコ大聖堂のあるサンマルコ広場とそこに通じる通りには、仮装した人々とそれを見にくる人々で大混雑となる。

仮装した人々はゆっくりと歩きまわり、それをカメラに収めようと周りに人が集まる。彼らは、カメラを向けられると待ってましたとばかりにポーズを決める。この日ばかりは、それほどの美男美女でなくても仮面を着け、素敵な衣装をまとうことで誰もが主役、一躍注目の的となるのだ。

この仮装にも本来の目的がある。階級の違うもの同士が仮面で顔を隠すことにより、階級の差を飛び越えて謝肉祭を楽しむためのもの。当時の時代背景(貴族、商人、大衆階級が明確に分かれていた時代)があっての伝統行事といえる。
現代においても、仮装する誰もがカルネヴァーレを楽しむ参加者、という点では通ずるところがあるかもしれない。

期間中は、コンサートや仮装コンテスト、ダンス、ショーなどが開催され各地で盛り上がるのだが、その中で地味ながらにもなかなか盛況だったのが、食いしん坊さんにお薦めの“フリトイン・エクスプレスfritoin express”。


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船上のフリトイン

今年初めて公式プログラムにも入ったもので、船上の魚介のフリット屋。“フリトイン”とは、ヴェネツィアの方言でフライ屋のようなものをさす。
地元で長いこと料理人として働いてきたマウリツィオ・アダモさんのフライ実演販売だ。揚げたてのフライを、円錐上にクルクルと丸めた厚めの紙の中にガサッと入れてくれる。船の前には人だかり。かなりの人気だ。

そして、カルネヴァーレの定番として忘れてはならないのが、伝統菓子である『フリッテッレ』と『ガラーニ』。


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形や中身が様々なフリテッレ

前者『フリテッレ』とはいわゆる揚げたドーナツ。小麦粉に牛乳、砂糖、ビール酵母を混ぜ合わせて丸く油で揚げる。ドーナツとは書いたが、その口当たりはモチモチッとした感じで独特のもの。
形も大小あり、げんこつみたいな拳状のものから、一口でポンと口に入るくらいの小さなボール状のもの。そして中身は何も入っていないシンプルなものから、中にザバイオーネ(卵黄をかきたててマルサラで風味づけしたクリーム状のドルチェ)やカスタード、チョコレートが入ったものなど様々ある。

イタリア全土、特に北部ではこのドルチェはこの時期どこでも見られるようだが、生地に干ブドウが入ったものは『Fritelle veneziane/フリテッレ・ヴェネツィアーネ』といって、ヴェネツィア特有のものだ。

また、もう一方の『Galani/ガラーニ』も揚げ菓子のひとつ。四角い薄い生地を揚げて粉糖をたっぷりとかけたものをさす。

古いリチェッタ(レシピ)では、ラザニアの生地を甘くしたものを薄くのばして豚の脂で揚げたもの。現在のものよりもずっしりとした揚げ菓子だったと想像される。
現代のリチェッタでは、小麦粉、卵、バター、砂糖を合わせた生地を薄くのばして口当たりも軽く仕上げる。最近ではオーブンで焼きあげる、もっと軽いものも見かけるようになった。


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姿は素朴なガラーニ

このドルチェもこの時期、イタリア各地でよく見かけられるものだ。そして興味深いのが各地で呼び名が変わること。
ここヴェネト州では一般的には『Galani/ガラーニ』だが、稀に『Crostoli/クロストリ』とも呼ばれる。また、他地に行くとLattughe/ラットゥーゲ、Chiacchere/キアッケレ、Frappe/フラッペ、Sfrappole/スフラッポレ、Cenci/チェンチ、Bugie/ブジエ、等の名前を持つ。

そして形も様々で、ヴェネツィア周辺の『ガラーニ』は幅の広いリボンを切ったような形が正統。他では生地がもう少し厚めもの、形もひし形やクルリとねじったリボン状のもの、結び目があるもの等も見られる。

これらの菓子は毎年変わらずにカーニヴァルの時期の少し前になると、町じゅうのパスティッチェリア(菓子屋)、パン屋で出回りはじめる。
こうしたドルチェで春の到来を少しづつ感じ始める、この時期の風物詩のひとつといえるだろう。
一年のなかで最も静けさのある冬のヴェネツィアも、カーニヴァルから本格的な観光シーズンが幕を開ける。