フィンランドと言えば「森と湖の国」というキャッチフレーズが思い浮かぶけれど、具体的にどう「湖の国」かというと、日本とほぼおなじ国土に、面積500平方メートル以上の湖が約18万8000ある(Statistic Finlandより)。フィンランド語でフィンランドのことを「スオミ(Suomi)」というが、これはもともと「湿った土地」という意味。誇張でもなんでもなく、フィンランドは字義通り「湖の国」というわけだ。飛行機に乗って上空からフィンランドを眺めると、膨大な数の湖が網の目を作っている。
雨上がりの幻想的な風景数が多いだけでなく、湖はフィンランド人の生活に密着した存在だった。国土の7割近くが森に覆われているフィンランドでは、森林資源を利用した木材・製紙・パルプ関連産業がフィンランド経済にとって重要な役割を果たしている。フィンランド林業が盛んになり始めたころ、国内の道路はまだ充分に舗装されておらず、伐採した木をどうやって運ぶかが問題だった。このとき湖が木材を運ぶ交通網としての役割を果たした。丸太を湖に浮かべて運搬したのだ。街や村が湖と湖、あるいは川のネットワークで繋がれた。トゥッキライス(Tukkilais、「木こり」という意味)という名前で呼ばれる丸太運びのプロがいて、大量の丸太を湖に流し、自らも丸太に乗ってその流れを調整するという仕事をしていた。Tukkilaisは、湖から湖、街から街へと木材を運んで移動し、到着地に短期間逗留しては次の目的地へ向かっていった。
湖岸に立つサマーコテージこんな時代を背景にしたロマンティックストーリーがある。小さな村での退屈な日々、ある日若くてハンサムな男が丸太に乗って湖に現れる。そこで村の娘と恋に落ち、娘はその村の退屈な生活から男が連れ去ってくれることを願うが、男はまた丸太に乗って去っていくのだった。丸太運び人は男性的、そしてちょっとワイルドなイメージで、フィンランド語で木こりのロマンス(Tukkilaisromantiikka)と呼ばれるこの話を元にしたラブストーリー映画もたくさん作られ人気があった。Tukkilaisの活躍は1970年代交通網発達とともに終わりを告げたが、今でも伝統文化としてTukkilaisの丸太乗り競争が1年に1度開催されている。
Tukkilaisがデザインされているフィンランドのチーズかつては生活の重要な手段であり、時にはロマンスを運んできた湖は、今ではレジャーの重要な拠点。夏は水泳、ボート、魚釣り、冬にはクロスカントリースキー、スケート、そしてスノーモービルの場となる。湖岸に立つサマーコテージはフィンランド人の憧れで、購入価格も湖なしのコテージに比べお値段が5倍以上も跳ね上がる。レジャー活動のためだけでなく、湖は心像風景の一部としてフィンランド人の心に根付いているらしいのだ。
ボートなどのレジャー拠点でもある