バーのインテリアとして美しい珊瑚やカラフルな海水魚を泳がせた水槽を設定しているところは多い。宝石のような小魚がコミカルに動き回るのは見ていて楽しい。幻想的な雰囲気の演出に貢献度大だ。
6年ほど前、熱帯魚雑誌に世界最大の淡水魚ピラルクーを店内で泳がせているバーがあると聞いて、早速突撃。中目黒から渋谷方向に少し歩いたところにある「aqua lounge Granship」だ。中に入って驚いた。横5mある水槽が目前に広がり、2mはあろうかというピラルクーを初め、多数の熱帯魚が遊泳している。
お酒以外をウリにしているバーはたくさんある。しかし、ピラルクーは、その中でも飛び抜けて巨大で珍しい。水槽は奥行き2m、水深が1mなので、水量は約10トン。通常の家庭では設置することさえ不可能な設備だ。目の前を遊泳する巨大な熱帯魚を楽しみつつ、ウィスキーやカクテルを傾ける。熱帯魚が趣味。海水魚にはあまり興味がなく、淡水魚だけを集めた岐阜の水族館にでかけるのに労を惜しまない筆者でなくとも格別なひとときだ。
「Granship」は、定期的にボトラーズのシングルモルトを出している。ボトラーズとは、蒸留所から原酒の樽を買い付けて、自分のところで瓶詰めし、販売する業者のこと。蒸留はせずに、熟成や仕上げを自分のところで行う。蒸留所ブランドのオフィシャルものにはない熟成年数のボトルや、後熟に異なる樽を利用することで全く違う味わいになったボトルもある。有名どころのボトラーズとしては「ゴードン&マクファイル」や「シグナトリー」、「ケイデンヘッド」などが挙げられる。
価格はオフィシャルものよりも高くなるのが普通だが、ある程度飲み尽くした銘柄のボトラーズを見つけると、つい手を出してしまう。それは、ボトラーズの多くが、ひとつの樽からそのままボトリングしているためだ。
オフィシャルものは、出荷する銘柄全体のバランスを整えるために複数の樽をブレンドしたり、アルコール度数を抑えるために加水している。また、細かい不純物を低温で濾過する処理も行っている。しかし、ボトラーズものは、ひとつの樽でできたウィスキーをそのまま瓶詰めすることが多い。オフィシャルでは味わえない原酒の雰囲気を楽しめるのだ。しかも、樽ごとなので一期一会。ボトラーズが酒飲みに好まれる所以だ。
メニューを見ると、いくつかボトラーズウィスキーが用意されていたが、バーテンダーの山岸さんが薦めてくれた「SPRINGBANK GOLDEN FOUNDER’S RESERVE 17Years」をチョイスした。スプリングバンクは、スコットランドの西岸、キャンベルタウンという町に蒸留所を構えている。創業は1828年、その後ミッチェル家が買収し、今でも経営を続けている。「塩っぽい」味わいのヘビーなウィスキーを作っており、根強い人気がある。
そんなウィスキーをボトリングするのは、「ロッホデール」というボトラーズだ。なんと、ロッホデール社を立ち上げたのは、スプリングバンク蒸留所創業者の子孫であるゴードン・ライト。彼が記憶している、1960年代のスプリングバンクを再現するために作ったのが、この「ファウンダーズリザーブ」なのだ。
まずは香りを楽む。「SPRINGBANK GOLDEN FOUNDER’S RESERVE 17Years」のアルコール度数は46度だが、ぴりっとした雰囲気。しかし、グラスを少し回すと、フルーツを思わせる華やかな香りが漂い始める。年代を経たモルトなので、すぐに開いてくるのだろう。味わいは第一印象とは異なり、滑らかだ。バニラやココナッツの味わいとともに、スプリングバンクの特徴でもある塩っぽさも垣間見える。余韻は長く、スパイシーなアフターが残る。
まさに、至福。すぐになくしてはもったいないが、どんどん飲みたいという衝動の板挟みで、笑みが浮かぶ。今宵は何度こんな感動を味わえるだろうか。
aqua lounge Granship
住所:〒153-0043 東京都目黒区東山1-3-10 1F
TEL:03-3712-5587