ヴェネツィアの島巡りと美味いリゾット


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美しいガラス製品の並ぶ店内

ヴェネツィアはアドリア海に浮かぶ大小100以上の島々から成り立っている。本島をはじめ、個々にそれぞれのカラーがあり、また歴史がある。
各島間の移動手段はもちろん船。島の住人は小さなモーターつきのボートを自分たちの足代わりに所有している。入り組んだ運河やラグーナ(ヴェネツィアを取り囲む潟)内もよく熟知しており、小回りよく動きまわる。
住民が公共の交通手段として利用するのも船。ヴァポレットと呼ばれる乗合い船は、ヴェネツィア本島、そしてその周辺の島々に行くために路線がいくつか設けられている。
さて、このヴァポレットを使って島巡りをしていこう。一日あるといくつかの島を見て回ることができる。


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ムラーノ島のガラス工房の作業現場

数ある島々のなかでも特に有名なのは、ヴェネツィアングラスが発達したムラーノ島、レース編みと色彩の美しい家々が立ち並ぶブラーノ島、ヴェネツィア発祥の地とされているトルチェッロ島など……ということで、まずはムラーノ島へのヴァポレットに乗り込む。大運河を通りぬけ、本島を離れる。直通のヴァポレットで15分ほどすると、ラグーナに浮かぶ小さな町が現れる。
島にはガラス製品を扱う路面店が運河沿いに並び、そして工房も数多く残っている。ムラーノのガラスを有名にした豪華なシャンデリア、美しい独特の色合いや形のグラス類、現代調、モダンなあしらいの装飾品などなど。芸術的なガラス製品の数々にため息が出る。
この島のガラス製作の歴史は、高熱の窯で仕上げるガラス製品の工房では出火の可能性が高く、建造物が建て込んでいる本島では火事の発生を恐れたこと、また、その技術の流出を防ぐために職人が一同にムラーノに集められたことなどから興っている。職人たちは手厚い保護を受けながらも、厳しい管理下に置かれていたという。

海洋貿易で富を得、栄えたヴェネツィア共和国。自国調達の物資不足を補うための技術保護という地理的問題からくる政策の一環だったのだろう。そうして始まった文化は、ヨーロッパを中心に華やかな時代を飾る装飾品として、この地から数々の名品を残してきた。一時期は衰退の時代もあったのだが、それも技術の進歩と商品力でその地位を守り、現代に伝承されている。
が、ここ近年は安い中国製や世界的な不況の風を煽り、危機が訪れているというのが現実だ。


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ブラーノ島の色彩豊かな家々

なんとなく時代の流れの切なさを感じながらムラーノ島を後にし、次に訪れるのはブラーノ島。
この島の特徴は立ち並ぶカラフルな家々。この島を支えてきた漁業に従事する人が自分の家を見分けるためのもの。家の壁色は、その人物・家族を特定する屋号なような存在であり、また地元の人たちにとってはそれらも標識代わりとなる。
まるでおとぎ話の世界のようで、どこを歩いても可愛らしくて絵になり、カメラを向けたくなる風景だ。
そして、この島の古くからの重要な産業が、メルレッティと呼ばれるレース編み。こちらも安価な製品への需要が高まり、高価な本物の手編みブラーノ製には実際のところなかなかお目にかかることは難しい。本物をつくる職人さんの数も激減している、という現実はここも同様だ。

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リゾット盛り合わせ

さて、同島は小さな漁業の町である。この島で食べられるおいしい魚料理、ゴーと呼ばれる白身の小魚を使ったリゾットが有名、ということで昼食はそれに決まり。ちなみに“ゴー(gò )”というのはヴェネツィアの方言。正しいイタリア語では、この魚は“ギオッツォ(ghiozzo)”という。ラグーナの底に仕掛けた網にかかってくるハゼ科の小魚で、成魚で全長20‐25?ほどの魚である。海辺で釣り糸をたらす愛好家や子供たちにもおなじみの地元の代表的な魚だという。
仕上がったリゾットは白いだけの控え目な存在だが、食べるとその潮の香りと風味のある魚の、実に美味いリゾットだ。気持ち強めの塩加減がこの風味を際立たせる。
盛り合わせのもう一方はイカ墨のリゾット。こちらも濃厚なイカ墨の風味。両者とも申し分ない仕上がりで大満足。


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ラグーナ内を走るヴァポレットから

と、ここで腹ごなしをして、次なる島巡りはトルチェッロ島。ヴェネツィアに人が住みつき街となったもっとも古い場所。
この島に近づくまでの航路は、ここはラグーナだ、ということを改めて思い知らされるような湿地帯の間をぬけていく。ひと気のない小さな島を通りぬけること数分で同島に到着する。

ローマ帝国時代の5‐6世紀には人が住みつきはじめ、7世紀には司教座もここに置かれた。当時は要所として認められ繁栄したものの、マラリアなどの伝染病の流行で島は閉鎖状態に。

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少々寂し気な帰り路

一時期2万人はいた住人も、数世紀を経た現在は20人弱にとどまる。
ヴェネツィア本島にはない草地が広がっていたりなどする、まったく異なる雰囲気を持つこの島。また違ったヴェネツィアの魅力の一面を垣間見るようだ。

中世の栄華を思わせる海洋国家と、それにならう島々の陰影の歴史を感じるヴァポレットの旅。まだ訪れていない他島への興味がさらにつのる。次回はどの島を巡ろうか。