秋を通り越して、すでに冬の気配が漂うフィンランド、ヘルシンキ。しとしとと雨が降り続き、日中の明るい時間帯がどんどん短くなっていく。街ゆく人々はコートの襟を立てて、なんとなく首をすくめて歩く。バルト海ニシン祭が開催されるのは、そんな季節だ。
ヘルシンキニシン祭1974年から続くバルト海ニシン祭は、今年で270回目。ヘルシンキでもっとも歴史あるイベントのひとつだ。かつては、ヘルシンキっ子の冬の生活を支えるほど重要な行事だった。冬になると氷で海が閉ざされ、新鮮な魚が手に入らない。ヘルシンキに住む人々は、この市でニシンの塩漬けを冬の保存食として購入した。ここでの価格が、その後1年間の魚の値段を決定したと言う。
バルト海の男は歌う
水槽に「日本では池にいる」鯉が泳いでいますヘルシンキ市中心部の港に、漁師たちがバルト海フィンランド南部多島海域からやって来て、直接そのボートで商品を売る。伝統的なニシンの塩漬けは、ほくほくのジャガイモに付け合わせて食べるのがフィンランド風。とてもしょっぱいから大量には食べられない。最近では、マリネ部門で新製品が続々と登場する。カレー味、チーズ味、チリ風味などなど。
バルト海と言えば、私は荒れ狂う灰色の海を思い浮かべてしまう。でもフィンランド人にとっては、憧れの土地だ。シンプルで静か、豊かな自然の生活と新鮮な魚。夏休みを過ごす別荘を持つのが、フィンランド人の憧れ。小さな島々がひしめき合うちょっと神秘的な風景を眺めながら過ごす夏を夢に描く。
「どの魚が日本にいますか?」、「これだよ。そこの小さめのやつ。鯉だよ。日本では庭で泳がせていると聞いた」シャイな漁師がぼそぼそと教えてくれた。
ニシンのマリネがずらり
伝統的な黒パンとじゃがいもパンこれからやってくるどんより暗闇の季節を迎えるために、通過儀礼のようにあつあつホコホコのジャガイモ、ニシンの塩漬け、そして黒パンをいただく。長い冬を乗り切るぞ! という鼻息荒い意気込みにあふれているわけではない。でも、静かにそして少々諦めの気持ちも込めて冬を迎えるこのやり方は、いかにもフィンランド人らしい気がするのだ。