【特別連載】おそうじマン日記(その11・了)


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冬休みになり、新しい年が明けて、1月4日。明日から園児たちが登園してきます。
掃除をしていると、一人のかわいらしいおばあさんが、両手を差し出してふらふらと入ってきました。
顔がほんのり赤く、お酒を飲んだのか、千鳥足で近寄り、私を抱きしめました。
そして、ひざに頭がつくほどおじぎをして、
「明けましておめでとうございます。私はこの近くに住んでいる者です。今日は、とてもいい気分です。あなた様には、いつもいつも、ここをきれいにしていただき、まことにありがとうございます。毎朝、元気なお子さんたちが、お若いお母さん方に連れられて通ってこられるのを、楽しく拝見させてもらっています。
おかげさまで、毎日元気が出ます。それから、今日のことは町で会ってももう忘れてくださいね。それでは今年もどうぞよろしくお願いいたします。」
ぺこりと、もう一度おじぎをしてゆっくり帰っていかれました。

雪が降って、晴れた日のことでした。お父さんとお帰りのごんた君が、私の前に走ってきて言いました。
「あのね、ぼくね、おうちでお父さんを手伝ってあげてるんだー」
お父さんは、手をケガしています。私にごあいさつをされました。
私は、ごんた君を見つめて言いました。
「まあ! えらいですねぇ」
「うん。さようなら」
と、胸をそらして言ったごんた君は、お父さんと手をつないで帰っていきました。

春になり、卒園式の日がやってきました。
卒園児たちは、園長先生から、
「雨の日も風の日も、暑いあつい日も、雪の日も、保育園へ通って、たくさんのことを学び、挑戦し、成長しました」
と、その頑張った努力を褒めたたえられ、ご父兄方にはお祝いとねぎらいの言葉が贈られました。
卒園児の通園年月が一人ずつ発表されて、よっちゃんは5年と4カ月でした。

式が終わって、卒園児たちは先生方のアーチをくぐって玄関へ行きました。
「あっ、よっちゃんがいないわ。よっちゃん、どうしたのかしら?」
先生方が騒ぎ始めると、びゅーっと走ってきたよっちゃんが、私の手を握って引っぱりながら、アーチをくぐってホールへ戻り、一周すると、またアーチをくぐって玄関へ出ました。
そこでよっちゃんは、ようやく手を離して言いました。
「さようなら、ハルせんせい。げんきでいてねー」
そして外へ出てからも、見えなくなるまで何度も振り返って言いました。
「バーイバーイ」
あんまり大きい声なので、まわりの園児たちが大笑いしました。
「でっけえこえ!」
このとき私は、自分も保育園を卒園できたような気がしました。


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この体験は私の宝物になっていて、毎年春が近づくころになると思い出されます。すると、心が温かくなってきて、力と希望が湧いてくるのです。(完)

絵・稲葉 美也子