初恋物語

恋に落ちた瞬間

そのときまで、わたしにそんな瞬間が訪れようとは思ってもいなかった。恋を夢見るような年頃はとっくの昔に過ぎ去っていた。それまでのわたしには何もなく、それからのわたしにもずっと何もないままのような気がして...

初恋らしきもの

初恋かあ… しばらく腕を組んでみたところで、盛大な山あり谷ありの人生。さんざん昇り降りした後「さて最初の峠はどんなだったかいな」って話し。覚えているやら、いないやら。そもそも。どこからを...

交換日記

本棚に見慣れない古いノートがひっそりと挟まっていたのに気がついたので、とりだしてみたら交換日記だった。高校生の頃だからもう何十年以上も前のことだ。ひろげて眺めてみると、ちょっとカビ臭くホコリっぽい香り...

愛しのグローリア

グローリアは20歳になる米国の人で、絹のようなブロンドが美しくブルーサファイアの瞳をキラキラ輝かせた素敵な天使でした。私も20歳。ある熱い夏に偶然出会ったのです。 当時、名古屋の極貧学生だった私は伏...

転校先を訪ねて

意識はしていなかった。クラスに15人いる女子のうちの1人だった。「中原さんが、9月いっぱいで転校することになりました」小学5年生の夏休みが明けた2学期初日の朝、担任の先生が唐突に発表した。そのとき僕は...

時間差で気付いた初恋

彼のあだ名は「ハカセ」。飄々とした雰囲気と、理科実験部に所属していたのが出所と思われる。別にカッコいい部類の男子ではなかった。中学1年男子の中では背も低いほうだったし、スポーツも人並み。勉強はといえば...

砂浜に埋めた恋心

15の夏、自転車で遠くの町まで遊びに行った。「海が見たい」と僕が言ったら、「水のきれいなところへ泳ぎに行こう」I君は、砂が白くてサラサラとした浜辺へ僕を連れて行ってくれた。海開きになった日に、海水パン...

守ってあげたい王子さま

保育園の頃。初めて好きになった男の子の名前は、「ししくらしんいちろう」君。色が白くて、目がくるっとしていてかわいくて、やさしい男の子。ウルトラマンなど特撮ヒーロー物が大好きで、どちらかというとオテンバ...

期限付きのリトル・ロマンス

事でも人生最初に経験することには、「初」という冠をかぶせるものだが、私の場合はどれもこれもに「初」の字が付くように思う。初恋とて同じことだ。幼少よりヘンにませていたのと、どの出会いも新鮮でこれこそが初...

初恋はフルートの調べとともに

当時16歳だった私は、両親が音楽大学の受験指導をしていたため、日曜は受験生にスリッパを率先して出していた。その中にヒデがいた。彼は愛媛出身でフルート科を目指して、両親の教鞭を取る音大に入るため父から音...

箸使い

「なんちゅう持ち方や!」私のおかしな箸の使い方を指摘されたのだ。 顔がカッと赤くなり、いつもの軽口をたたけなくなった。「ほっと、い、て」精一杯、普通の声で言ったつもり。でも、かよわい声だった。いつもの...

そうめん弁当と「魔王」

中学校に入学したばかりの頃、私の斜め前の席に座っていた男の子。大きな目とやや尖り気味の口元が可愛らしいが、注目を集めそうなタイプではない。小学生の頃から"ボケ"と仇名される、どこか飄々とした雰囲気の持...

ジャングルジムのてっぺんで

ジャングルジムが好きだった。幼稚園の砂場の横にある、くすんだ銀色のジャングルジム。ひょいひょいとてっぺんまで昇っていって、ちょこんと腰掛け、ひとりきりで空を仰ぐ。きもちいい。もちろん園庭にもジャングル...

走行距離

「リリーちゃんがナオキ君のこと大っ嫌いって言ってた?」年長組みの教室に、可愛らしい大声が響く。さっちゃん。スモックを軽やかなスキップと共に振り回しながら、満面の笑みでナオキ君に言い放った。あたしはナオ...

勝負なし

高校生活3年間の「恋」戦線は3戦3敗1引き分け、と書いた。すでに「あれ?」と思われた向きもおありだろう。勘定が合わないものね。「1引き分け」の話である。もし獅子奮迅の働きぶりで、それでも戦いを分けたの...

私のランボー

「またかよ」「節操のない!」の声があろうことは覚悟の上である。 相手によって自身の「本質的な何か」が変えられる、すなわち小さくはあっても、人生の一つの精神的分岐点と呼ぶべきを「恋」と規定するなら、これ...

ペンギンさん

高校生の初恋全3戦のうちの2戦目の話である。 男子はニックネームを「ペンギンさん」といった。 いつもこう...胸を張って歩いている感じ、それがペンギンに似ていたような、それでいつしか「ペンギンさん」...

大人の味…

初恋話しが3度目というのもおかしな話じゃあないか、とはおしゃいますな。 そもそも「恋」なんぞと呼べるものに、そうそう出会うわけはないんである。幼稚園だの小学生中学時代のそれらしきは、あくまでもその予...

ひろっちゃん…

育った京都には地蔵盆という慣わしがあった。 夏のお盆の際に集落の中心位置ほどにあるお地蔵様の赤いよだれかけをかけ替え、お供え物をする。子供のためのお盆だ。お地蔵様が祭られている小さな祠は、それでもそ...

さとるちゃん…

「おばちゃん」ってぐらいだから、もとは「女の子」だったのよね。 確か小学校の5年生ぐらいだったかな、おんなじクラスに「さとるちゃん」て男の子がいた。なにさとるちゃんだったか、はて記憶がないのだが、面...