世界の山岳史に名を残す日本人アルピニストたちが遺した登山靴。それらは大概は、はいていた当人にしかはきこなせないものに違いない。
幾度目かのアルプスやヒマラヤ山行で凍傷を負い、辛くも命からがら下山。手術後の脚に合わせれば、大の大人の男がはく靴のサイズが19cmに満たないものだったり、当然左右のサイズが著しく違っていたり。それをカバーするために靴底は何重にも重ねられたりしている、いずれも特注品なのだ。
あるいは靴さえ、未だ山に遺したままだったりもするだろう。
そも人間存在を拒絶する厳しい山にあっては、生よりも死の方がはるかに必然だという。それでもわずかな可能性に活路を見い出し、挑み続ける過程で山に散っていったアルピニストの最後の山行を書いた8編を集めた。
末期がんの病床で、一時帰宅のしばしの安寧のひととき。時には家族の口述によって綴られた、ジャーナリスト佐瀬 稔の遺稿集でもある。
巻末の夫人による闘病記及び絶筆となったコラム。
読み進めてきたアルピニストらの生き様と著者の山男たちに寄せた深い共感、著者自信の生き様、散り際の様がない交ぜになる。
山には登らなかったが、なんと紛れもない「山男」ぶりであることか!
作者名:佐瀬 稔
ジャンル:ノンフィクション・ルポルタージュ
出版:山と渓谷社