狼は帰らず―アルピニスト・森田勝の生と死

顛末が表題で示されている。わかっていて読み進めるのは結構つらい。

同著者作の「虚空の登攀者」に登場する長谷川恒男の10年先輩になるアルピニスト・森田 勝を描いたノンフィクション・ルポルタージュ。
森田を山にかりたてたもの。著者は明らかに、その生い立ちにストーリーを見い出そうとしている。誰の責めでもなく負ってしまった愛情欠損の空洞を埋めるべく、しかしながら埋めようとして埋められないが故に突進していった。抜いた矛先が山だったと。

確かに深層心理はそれを認めざるを得ないとして、それにも増して彼を捉えて離さなかった何かが、確かに存在すると思えてならない。
人間存在を拒絶する厳冬の凍山で、彼だけが受け取ったもの…

1969年にアイガーでザイルを組み、登頂まで300m地点で転落した木村憲司に森田は「オマエがどうかなるんなら、オレも一緒に死ぬぞ」とボロボロ泣きし、傍らで見ていた岡部 勝は熱い感動に突き動かされたという。

森田がグランド・ジョラスに散った1980年から四半世紀を超える月日が流れた。
木村憲司が岡部 勝、他と「日本モンブランクラブ」を立ち上げ、シャモニモンブランガイド組合日本代表として日仏山岳交流の架け橋となって活動し、また有志ととも国際山岳救助委員会(IKAR-CISA)日本組織設立に力を尽くすなど、今なお活躍していると知ることの幸福を心から想いたい。


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作者名:佐瀬 稔
ジャンル:ノンフィクション・ルポルタージュ
出版:中公文庫

狼は帰らず―アルピニスト・森田勝の生と死