帯に「天安門事件前夜から北京五輪前夜まで〜中国民主化勢力の青春と挫折」とある。
中国の民主化運動の終点ともいうべき天安門事件。主体となって動いた学生たち。
1960年代から70年代に日本が経験した学生運動の渦と重ね合わせる向きもあろう。
片方は自由化、民主化を目指し、もう一方は社会主義体制の構築を謳った。
時が経ち世は移り、さて残ったもの、失ったものは一体なんだったろう。当事者たち個人の胸に、あるいは社会に落とした影は。
第139回芥川賞受賞作の本作。中国国籍の著者の受賞の弁によれば、「読者は100パーセント日本人を想定して、日本語で書いた」とある。
もし、本国・中国の読者を対象に、中国語で書かれたなら、当然その反響のあり方も意識下にすえてのことになるとすれば、作品性はどう変わっただろう。
体制は反体制をも包含する、とは言うが、ベクトルの始点と終点の大きな相違は、そのまま状況の困難たるに直結する。貧しい想像力ながら、少なからず戦慄を覚える。
ってな、理屈はさておいて、
日本の60〜70年代との比ではない状況下のできごとを書きながら、どこか牧歌的な、あるいは大陸的悠々な空気と純で熱い若者群像の息遣いを感じながら読めば、それでいいではないか。
社会考察・批判というよりは、「心象」を描こうとした作品に違いないのだから。
作者名:楊 逸(ヤン・イー)
ジャンル:小説
出版:文芸春秋社