船戸作品の読者なら「国家と犯罪」と聞けばピンとくるはず。
国家が犯罪をどう取り締まるか、という話しでは全くなく、社会状況に於ける犯罪傾向の分析などでも全くない。
冒頭、著者自らの弁のとおり「国家に対する犯罪」と「国家による犯罪」そしてその相関関係が通底するテーマ。
怖い話しである。
キューバ、メキシコ、中国、クルディスタン、イタリア…
それら紛争地域を抱える辺境の地を著者が実際に訪れ、考えられないような危険地帯にも足を踏み入れ、時には官憲の目をかいくぐってインタビューを試みたドキュメント・ルポルタージュ6編。
思うに、本作を手に取るより前に、まずはアジア、中東、東欧、南米、アフリカなど、現代史の裏側を舞台に繰り広げられる著者作品の数々。それらをとにかく読み漁ってみられるがよかろう。
むしろその方が、如何に周到かつ綿密な取材と、鋭い考察に支えられた作品群だったかが、より鮮明に認識され得るに違いない。
血なまぐささも、ウルトラ過激なバイオレンスも、お気楽日本に息をしたれば、思い巡らす想像力をはるかに超えた突拍子もないと見えるストーリーでさえ、なぜあれほどまでにリアリティーを以って脳みそに突き刺さるのか、とことん納得する。
小説のストーリーを追ってスルスル読み進むのもエキサイティングだが、少し時間をかけてルポを読み進めば、あの作品、この作品の片鱗をそこここに見い出すのもまた、読むことの最大の楽しみにつながるというもの。
作者名:船戸 与一
ジャンル:ルポルタージュ
出版:小学館文庫