ああ、どうしょうもない、どうしょうもない!
なんと人間存在の絶望的なることか!!
船戸作品を読み積むほどに、相対的な人間性善説の無力なるを思い知る。
動物学上では、ネコもトラもライオンもピューマも「ネコ科」として捉えられているが、そんなのは人間が勝手に仕分けしているだけであって、ネコやトラに同類認識があろうはずもない。だから「われらネコ科はひとつ、みな兄弟」なんぞは言わない。ネコ科ネコ属だろうが、ヒョウ属だろうがチーター属だろが、境なく完全弱肉強食の世界だ。
しかるに人間は自らを「ホモサピエンス」と総称して「人類はひとつ、世界は兄弟」などいう。
「それってウソなんじゃん!」と思いたくもなる。
「人種、種族の相違は、ネコとトラの関係より、ひょっとするとパラレルなんじゃない?」と。
そうでも結論づけなければ、今なお止むことない民族紛争の説明がつかないではない?「種の保存本能・DNAがなせる業なんだよ、しゃーないや」ってね。
ベネゼェラの、地名さえ持たないローカルな「涸れた油田地帯」でくり広げられる壮絶なバイオレンス「血しぶきの祭り」に舞台設定しながら、現世界の権力と暴力の相関関係を影絵のように写し出す。
単純なヒューマニズムの虚無性を認識した上で、しかも絶望的な闇を人の「知」「理」はそれを超えられるか?
作品は、その問いに「是」と応えているのか、それとも「否」か?
解釈は決してたやすくはない。相当な覚悟を以ってせねばなるまい。
心身を鋭敏に強靭に鍛錬し、なお身をすり減らし、自ら発熱・発火しなければ、かすかにゆらめく「灯」すら点せない。
そういうことなんでしょか?!
の前に、上巻・567ページ、下巻・511ページのボリュームは要覚悟!
巻末の関口苑生氏による作品解説も必読。
作者名:船戸 与一
ジャンル:小説
出版:双葉文庫