新宿・夏の死

まあ、文庫本なのにかさばること!

夏の、しかも新宿を舞台の今の今を描いた8編が編まれた中篇集。

当然、新宿名物?のおかまのねえさんから、ホームレス、ヤクザ屋さんまで種種、登場し、家出娘捜索、リストラ問題や、およそ「現代日本」の様相が700ページを超えて語られる。

近代および現代世界の民族紛争を扱った大作に比べて、ガハハと笑ったりしながら「ややハードな要素が少ないな」と思えるのも束の間、読み進めると、どうして、さすがに血なまぐささは若干希釈されてはいるが、ドンパチが少ないわりになかなかハード。

読後は「爽やか」などとは遠く、かなり気が重くなる。

仕方がないね〜

ノーテンキ、平和ボケなど「ほんまかいな」と怖くもなる。むしろ中身の混沌と裏腹な見え方をしていること事態が、相当にヤバイってことだもの。

船戸作品を読みあさる者として、北京5輪の開会式「現在も紛争が続いております」の参加国紹介に胸を痛め、「ふんなチャラッとで済む話かい?」と憤激してみるなんざ、まだ現状認識が甘いってことさ。

日本たりといえども、世界で起こっていることと無関係でいられるわけはない。どこでどう糸づいているのか、思えば思うほどにハードでそら恐ろしい。


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作者名:船戸 与一
ジャンル:小説
出版:文春文庫

新宿・夏の死(文春文庫)