もやいだ霧の水滴が凍り、空気中の水蒸気が直接昇華して結ぶ小さな氷の結晶が、日光を乱射しながら冷たく澄んだ宙を舞う。
編まれた5編の短編はいずれもキリッと身が引き締まる厳寒の地にこそ見られるダイアモンドダストのようにきらめく作品。
地域医療、終末医療の現場に身を置き、内戦時のカンボジアへの派遣医師の経験もある作者が大上段に構えるのではなく、静かな目で「死」を見つめる。
「次は自分の番」を受容してもなお、医師として心を震わせ、あるいは揺れてさ迷う精神の糸を懸命にたぐる。作者にとって書くことが「癒し」なのであれば、その繊細ではあるが同時に寛い心ねと深い人間愛に限りなく読者も癒される。リーディング・セラピーとでもいおうか。
巻末収録の加賀乙彦との対談も興味深い。
メメント・モリ…。
言うほどたやすくはない。
作者名:南木 圭至
ジャンル:小説
出版:文春文庫