エチオピアからの手紙

フレッシュ&ジューシー。チャーミング&キュート。そして、切なくて温かい。などいってもラブストーリーなんかでは決してない。
末期がん患者と向き合うドクターの話しだったり、内戦激するカンボジアの野戦病院に運び込まれる地雷で吹き飛ばされた足を切断処置する話だったり。遠くエチオピアで、死に逝く人をみつめることしかなす術もなくうなだれる日本人医師の話だったり…。「死」が道端の石ころのように日常に転がっている状況が高い濃度で語られる。

にもかかわらず、収められた短編5編はいずれも切ないほどの温かさに満ちている。常に死と向き合い「次は自分の番」と心静かに居住まう作者の視線がそれほどまでに体温を伝えてよこすのだ。
「医は算術にあらず、仁術なり」など声高に唱えるでなく、人として医師としての苦悩をフィルターにした、岩清水のように澄み切った清涼な滴りは渇いた喉を潤してくれるに違いない。

巻末、作者「あとがき」および「文庫版のためのあとがき」をしみじみ、ゆっくり時間をかけて読む。

いとしさがこみあげてくる。


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作者名:南木 佳士
ジャンル:小説
出版:文春文庫

エチオピアからの手紙(文春文庫)