vol.1からvol.13まで累計330万部を売り上げたベストセラー作品『岳』シリーズの最新刊。
予約しておくと必ず発売日(4月28日)には新刊が家に届く。待ちに待った時間の長きに比べれば、あまりにも「あ」という間に読み終えてしまう。夢中になり過ぎて。
折しも映画化なった同表題の『岳』が封切りの5月7日を迎えるまでに何度だって読み返せる。vol.14のみならずvol.1からおさらいだ。
もしすでに映画をご覧になり、しかしながらコミックスのほうは未読という向きは、ぜひ原作にも触れていただきたい。脚本のもとになったvol.1、vol.2、vol.3から始めるもよし、最新刊から始めても構わない。必ず1巻には数話がオムニバスに編まれているから、どこから読み始めてもなんら差支えはない。
ともかくもどの巻にも縦横無尽に山を駆け巡る山の申し子「島崎三歩」が、これまた身も心も自由に溢れている。
当然ながら「山」は美しいだけではない。いったん牙をむいて襲いかかれば、人知人力などチリにも満たない、残酷な場と豹変する。それはそれは正視に堪えない惨場と化す。にもかかわらず、どの巻も読後には胸に爽やかな優しい風が吹き抜ける。「ぽ」と温かな灯が灯る。三歩の在りようが代弁する作者の自然観、人間観のなせる業なんだろう。
例えば原作にしても映画にしても、「現実にはあり得ない」状況をそれとして批判するより、作者の「心」に感作して胸を熱くしたり、感涙をこぼしたりできる幸せを喜びたい。
強いてvol.14を熱くお勧めするならvol.1及び映画『岳』にも登場する「ナオタ」がいい感じで登場する。明けない夜はない。癒えない傷もしかり。白々と明けゆく新しい陽光に目を細めながらも天を仰ぐナオタの顔は、確実に頑丈な男のそれに一歩も二歩も近づいているに違いない。
いや、「三歩」に近づいて、なんて駄洒落じゃあない、ない。
作者名:石塚 真一
ジャンル:山岳コミックス
出版:小学館