Dr.スランプ

鳥山明の作品をひとつだけ挙げるとしたら、どの作品になるだろう。

考えるまでもないだろう、な。ほぼ9割以上が『ドラゴンボール』という答えになるのは想像に難くない。『週刊少年ジャンプ』での連載だけでなく、世界各国で大ヒットしたコミックス、問題のハリウッド映画(笑)、さらに第1作だけでなく、先日までリメイク放送されていたアニメなど、子供から大人まで知らない人はいない大メジャー作品、それが『ドラゴンボール』。これ以外は……ひょっとしたら『ドラゴンクエスト』のキャラクターデザインが2番手に付けるのかもしれない。

ただ、私はここで別の作品を挙げる。まあ、鳥山明は『ドラゴンボール』連載終了以後、悠々自適な作品発表に留めており、現在のレギュラーは約4年周期で『ドラクエ』、みたいなものである。代表作の候補となるのは『ドラゴンボール』とこの作品くらいだから、1割にも満たない支持というのは言い過ぎかもしれない(そうであってもほしいし)。

私は断然、『Dr.スランプ』だ。

とんでもない田舎として描かれるゲンゴロウ島内のペンギン村をメインステージに、則巻千兵衛博士が作ったアンドロイド・アラレとその仲間たちによるドタバタを描いたギャグ漫画である。
ストーリーは、特にない。
近眼のアンドロイドであるアラレと、実はスゴイ発明をしているのだがスケベばかり強調される千兵衛を中心に話が展開されるのかといえば、またこれがそうでもない。人間だけでなく擬人化された宇宙人やらブタやら悪魔やら太陽やらがそれぞれレギュラーキャラクター化され、毎回毎回さまざまな形で登場してドタバタを繰り広げていく。強いていればこれがストーリーか。

木緑あかねや空豆タロウ、オボッチャマンなどメインキャラクターが性格はそのままに泥棒になったり大富豪を演じたりすることはもちろん、完全に準レギュラークラスのキャラクターでも話によっては堂々とメイン級で登場する。毎日、朝を告げるサングラスのブタとして登場していた「ブータレブー」など、則巻家が大都会島に行くときになんの脈絡もなく同行していたりする。たばこ屋のおばあちゃんである「はるばあさん」は実は産婆さんでもあり、千兵衛と結婚したみどり先生の子供、ターボくんを取り上げたりもしている。とりあえずのキャラクター設定があり、それらが勝手に動いて各話のストーリーを作っている感じだ。

いまもって読み返しても、ちりばめられるギャグはとても新鮮であり、そしてつい声を出して笑ってしまう。買い物で米を頼まれたアラレが、途中で文鳥を育てようとしている虎のおじさん(本物の虎)としばらく一緒に文鳥を育ててしまい、数日以上帰ってこなかったはずなのに「あら、ずいぶん遅かったわね」だけで済まされたあげく、「で、お米は?」の声に、農家だった虎のおじさんにもらった山のような米俵を見てみどり先生がコケるという……伝わらないのはわかっているので、実際に読んでみてください(笑)。こういった笑いが各話で満載されている。

鳥山明は、ギャグ漫画家である。
ドラゴンボール』の前半はそのテイストだが、戦闘ばっかりとなった後半、敵と対峙して膠着する同じシーンが続いたときに「これはコピーではないのか」と登場人物のクリリンに言わせ、例のガスマスクを被った鳥山明がコマの中で困っている描写があった。私はこれをシリアス(と言うのかどうか)化した『ドラゴンボール』(と、そうさせた集英社)へのギャグ漫画家・鳥山明の抵抗だと確信している。

断言する。鳥山明の真骨頂は『Dr.スランプ』――。
間もなく引っ越そうと思っている私はただいま現在、いくつかの書籍を放棄することも考えている。ただし、遠い昔に購入した『Dr.スランプ』の単行本全18巻は、いち早く引っ越し荷物に梱包した。それが私の『Dr.スランプ』への想いのすべてである。

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作者名:鳥山 明
ジャンル:コミックス
出版:集英社

Dr.スランプ