寒いパドヴァの冬の夜。
気温が下がって辺り一面霧で真っ白
非常に寒い毎日の続く北部イタリアの冬。私の住むヴェネト州もイタリア国内でも寒い地域に属し、屋外では頭から足先までしっかりとした防寒具は必需品。町中を歩く人々の足も心なしか足速に、そして夏場であれば広場のあちこちに出されるバールのテーブルもこの時季は皆無。夜の訪れも極端に早く、ピンと張りつめたような冷い空気はこのシーズンならではの独特のものだ。
しかしながら、寒い時期ならではの楽しみだってもちろんある。外歩きで冷えるからこそ、温かいバールはいつも人でいっぱい。冷えた身体を温めるには、とにかく温かい飲み物が必須アイテム。さて、今日はどのアイテムを飲んで温まろうか……。
温かい冬の飲み物としての一番手は、チョコラータ・カルダ(=ホット・チョコレート)。子供からお年寄りまで、チョコレートだ?い好きなイタリア人にとっての冬の定番ドリンクの筆頭。
バールに座ったらあっちでもこっちでも、まるで決まりごとのように運ばれてくるのは、カップにたっぷりと注がれた甘くて濃厚なチョコレート。必ず「パンナ(ホイップクリーム)は??」と聞かれるので、これにうなずくと、これまたたっぷりとホイップクリームが乗せられてくる。寒さですっかりエネルギーを使い果たした身体にはこの温かさと高カロリーなドリンクは寒期ならでは。もう一度寒い屋外に出てみようか、と勇気づけられることは間違いない。
チョコラータ・カルダ。
濃厚なので、スプーンですくって飲む
冬のイベントでの露店では
ヴィン・ブリュレが振る舞われる
甘いチョコラータもいいのだけれど、身体を温めるには、やはりアルコールの力のほうが有効でしょ、という方には……。
まずは、ヴィン・ブリュレ(Vin Brule’)。ヨーロッパの寒い地方でよく見られる温かいワインで、赤ワインに砂糖とシナモンやクローヴなどの香辛料を加えて熱くした、いわゆる温カクテルだ。リンゴなど冬のフルーツが切って入っている場合もある。甘くてスパイシーなこの温かい飲み物、確実に身体の内側からポカポカしてくる。バールなどで飲まれるほか、何かしらの屋外イベントなどの露店などでは割と頻繁に見られる。寒さでキリリとした空気の中、フワフワとした白い暖かそうな湯気が見えると、それに引き込まれるように暖を求めて足が向いてしまう。フーフーいいながら、温かいドリンクの入った容器を両手で覆うと、冷えた手先も温かくなる。
リンゴも入って温かいカクテル
そして、この地に数年住んでいながらこの冬に初めて知った、“飲んでみた”ものがある。それがプンチョ(Punch)。「プンチョ飲む?」と尋ねられて、なんのことだか解らなかったが、よく聞いてみたら、いわゆる“パンチ”のことだった。フルーツ・ポンチ(=パンチ)のソレだ。
話はそれるが、イタリア語は書いてあるスペルをそのまま発音する。最近、特にIT関連用語などは英語発音することもあるが、ローマ字は英語で発音することが普通になっていたイタリア生活当初、この“イタリア語っぽい”読みに慣れるまで、なかなか苦労する場面に遭遇することが多々あった。反面、最近では、英語をイタリア語読みしている自分に気づくことがある。これは困りものだ。
これがプンチョ
さてさて、プンチョに話しを戻す。プンチョ(パンチ)とは、その言葉の持つ意味としてヒンディ語で“5”を表す。同名のインドの飲み物がもともと存在しており、アラックという蒸留酒を砂糖、レモン、紅茶、香辛料など、5種類の材料から成るものがイギリスに持ち込まれ、ヨーロッパ各地に広まったとされている。
ここヴェネト州では、このプンチョはいわゆるお酒と砂糖、果汁を合わせた温カクテルとなり、定着しているというわけだ。
写真のそれは、マンダリネットというマンダリンのリキュールをお湯で割り、砂糖を加えて温めたもの。小さなガラスのカップにオレンジの皮とともに提供される。熱くてすするように飲もうとしたら、アルコールたっぷりの湯気にむせかえりそうになった。マンダリネットのほか、キーナやコアントロー、ラムなどのリキュールでもつくられる。甘くてほろ苦い、冬の味。
こうしてみると、寒い冬も悪くはないもの。寒いからこそ、これらを飲手に、口にする楽しみがここにある。