チュリンへの道のりはなかなか険しい日本から来た友人と「チュリン」という村に行ってきた。リマからバスで約6時間半、標高2080mの小さな山村だ。最初はアスファルト舗装された道を走るが、リマを出発してから3時間ほどで砂埃らだけの細い山道となる。車一台分しか通れない未舗装路にはガードレールなどなく、窓から外を見下ろすとすぐ谷底が覗けるというなかなかスリリングな道程。日本の整備された道路に慣れている友人は、カーブの度に小さな悲鳴を上げていた。
ラ・メセタの温泉。
ペルーの温泉は水着で入るのが一般的チュリンは知る人ぞ知るペルーの温泉地だ。縦横ともに4ブロックほどしかない小さな村には安宿がひしめいており、水シャワーでよければ値段は素泊まり一泊300円から。手軽な食堂もあちこちにあり、鄙びた湯治場といった雰囲気で私はとても気に入った。
1997年7月に完成、
オープンした大統領の湯さてチュリンからさらに山間に1時間半ほど行くと、標高3200mの地に「ワンカワシ」という小さな村がある。そこに今回のお目当て、「Piscina Presidencial/大統領の湯」があるのだ。 この大統領とは元ペルー大統領アルベルト・フジモリのこと。在任中ペルー各地の山村を回った彼はワンカワシに湧くこの温泉をいたく気に入り、石造りの立派な温泉施設を造ってしまった。またその川向いには、「Piscina de la Primera Dama/ファーストレディーの湯」もある。こちらは父親を長く補佐した長女ケイコ・フジモリのことで、別名「ケイコの湯」とも呼ばれる。こちらのほうが新しくきれいだったが少しぬるかったため、私たちは40度ある「フジモリの湯」に浸かることにした。
日本人好みの落ち着いた造り、
フジモリさんに感謝!日ごろ湯船でリラックスする機会のない私は早く入りたくて仕方がなかったが、ガイドは「ゆっくり入ってね。とにかくそっと入ってね」としきりに心配する。確かに熱い湯に浸かって血行がよくなると、体内の酸素消費量が増えるため高山病にかかりやすくなる。しかしそれだけではない。「湯が熱いから気をつけろ」と言うのだ。
ペルー人は水もしくはぬるま湯で身体を洗う人が多く、熱い湯に浸かる習慣がない。例えばチュリン村にある「ラ・メセタの湯」は32〜35度。ペルー人たちはリラックスしておしゃべりに花を咲かせていたが、日本人にはぬるすぎる。「いいお湯よ、こっちへいらっしゃい」などと声を掛けてくれる人もいたが、身体の震えが止まらず早々に引き上げでしまったくらいだ。
逆にフジモリの湯はペルー人には熱すぎるらしい。
我慢大会に参加中といった表情のペルー人夫婦。
黒いシャワーキャップがおしゃれもちろんこんな山奥を訪れる人たちは観光というより湯治目的であり、リュウマチや関節炎、骨の痛みに効くというこのお湯を求めてやってくる。だから熱くても我慢して入ろうとするのだが、あまりの熱さに怒ったような顔をするのだ。そのまるで仁王のような表情に、失礼ながら思わず笑ってしまった。
さながら我慢大会といった様子のペルー人たちには申し訳ないが、久し振りに身体の芯までじっくり温まることができ、本当に幸せなひとときを過ごせた。日本人をも満足させるワンカワシの温泉、さすが大統領が愛した秘湯だけのことはある。