窓の外
全国各地の梅や桜の開花情報のニュースをぼんやり見つつ、窓の外にたんまり残った雪に目をやり、北海道民は深いため息をつく。
「春の行楽なんてまだまだ先。冬の間にエネルギーを使い果たしちゃったしなあ」
寒いところで暮らしていると、ひと冬越すのに、相当なエネルギーを要する。だから、楽しい春がやってくるというのに、北海道民はもうヘトヘトなのである。そんな疲労感たっぷりの道民の体力回復に一役買う春の便りがある。アサツキ、ウド、アザミ、セリ、ゼンマイ、ミツバとほろ苦いさわやかな春の香りを漂わせているスーパーの山菜コーナーでひときわ強烈な個性をはなっている山菜、行者ニンニクだ。
行者ニンニク
長さ20〜30cm、幅3〜10cmの葉でニラとニンニクがまざったような強い臭いを放つ行者ニンニクは、ユリ科ネギ属の多年草。生育速度が遅く、播種から収穫までの生育期間が5年から7年と非常に長いこと、またそのほとんどの繁殖地が国立公園などの自然保護区であり採取が制限されているため、希少だが、北海道では実に庶民的な山菜のひとつである。札幌市中央卸売市場では、「行者ニンニクはタラの芽とともに山菜の両横綱(丸果札幌青果の伊藤新一課長)」だ。
行者ニンニクという名前の由来は、山にこもる修験道の行者が食べたことからとも、逆にこれを食べると滋養がつきすぎて修行にならないため、食べることを禁じられたからとも言われている。
行者ニンニク醤油漬
それもそのはず、行者ニンニクはニンニクの5倍のアリシンを含んでおり、抗菌作用やビタミンB1活性を持続させる効果があるだけでなく、ガンや動脈硬化、脳梗塞などの生活習慣病の予防や疲労回復などの薬効がある。そのため、北海道ではアイヌ民族が古来から雪に閉ざされていた冬に消耗した体力を取り戻すために、料理や祭祀、薬用などに用いていたことから、アイヌネギとも呼ばれている。実際、人は一定の体温を維持しないといけないので、冬には体の中で体温をあげようとして、夏よりも2割ほどカロリーを余分に使うのだ。
さっと洗って、そのまま利用しよう。葉が開いたものは、ゆでておひたし(酢醤油)やあえもの(酢味噌)にする。茎は刻んで汁の実やそばなどの薬味としても美味しい。ジンギスカンの野菜としても北海道らしいし、ニラと一緒に餃子に入れて、究極スタミナ料理に挑戦してみるのもいい。変わり種としては、行者ニンニク入りかまぼこなんてのもある。豚肉などビタミンB1を多く含んだ食材と組み合わせることで、消臭しつつ薬効の高い料理もできる。
変り種行者ニンニク入りかまぼこ
食べると何となく元気になったような気がする味と臭い。これは決して春の「香り」ではなく「臭い」なのだ。この「臭い」を味わえば、知らず知らずのうちに溜め込んだ冬の疲労感から、一気に目が覚めて、うららかな春(まだ遠い先のことだが)を迎える体と心の準備ができる。
ただし…
休日の前に召し上がれ。まる1日臭いがとれません。