今年もトックリキワタのピンク色の花が美しく咲いている。3月から4月にかけて花をつける南米原産の木で、幹が徳利のようにぷくっと膨れ、実には木綿が入っていることからこう呼ばれるそうだ。高く伸びた枝が見事なピンク色に染まると、思わず足を止め見上げてしまう。
そして友人の言葉を思い出すのだ。『私たち日系人は、あの花をリマ桜と呼んでいるのよ』と。
リマには日系人が大勢暮らしている。日本人が移民として初めてペルーの地を踏んだのが、今から110年前、中でも沖縄出身者が一番多い。今ではすっかりこちらの暮らしに馴染じんでいる彼らだが、移住当時の苦労は相当なもので、加えて日本への想いもとても強い。
言葉や生活習慣だけでなく、季節もまったく反対のこの地に来た彼らにとって、日本の桜の開花時期にあわせて咲くこのピンク色の花は、さぞや郷愁を誘うものだっただろう。
トックリキワタの花がソメイヨシノのような淡いさくら色ではなく、沖縄の寒緋桜に似た濃く鮮やかなピンク色であるところも、沖縄出身者の多い日系人たちにはしっくりくるのかもしれない。
「ああ、今年もこの花が咲いたね」「日本も桜が満開だろうか」そんな中で誰ともなくこの花を「リマ桜」と呼び始めたというのは、ごく自然なことのように思う。
どんな時代でもどんな場所でも、桜は日本人にとって特別な花なのだ。
しかし残念な事に「桜の木の下で宴会」という楽しい習慣は、ペルーにはない。お花見がないならせめて花見団子だけでもと、日本から送ってもらった材料でみたらし団子を作ることにした。こねて丸めて茹でた団子を串に刺し、コンロの火であぶって焦げ目をつける。そうそう、みたらしアンもたっぷり用意せねば。こちらでは団子屋もコンビニもないので手間がかかるが、手作り団子もなかなか風情があっていいものだ。
ペルーの友人に披露したみたらし団子は大好評だった。リマ桜もいいが女が集まれば花より団子、気の置けない友人たちとの食事はやはり楽しい。持参した団子はきれいになくなったが、みたらしアンが少し残ってしまった。普通は捨ててしまうアンも、手作りだと思うとなんだか惜しい。
そんな私の気持ちを察してか、友人はこの残ったみたらしアンを、なんと巻き寿司のタレに再利用すると言ってくれた。少し驚いたがアナゴのタレのようなものだし、ペルー人はこういう甘い味が好きなのだ。
日本の桜と違い、1ヶ月以上も美しく咲き続けるリマ桜。リマ桜が散るまでにまた1度は集まろうと友人たちと約束し、次の団子の準備に余念のない私であった。