マサコ「この国の人はどうしてこんなにゆったりのんびりして見えるのかしら」
トンミ・ヒルトネン「モリがあります」
映画『かもめ食堂』(監督・荻上直子)より
★
フィンランドのヘルシンキを舞台にした映画『かもめ食堂』で、もたいまさこ演じるマサコと日本おたくのフィンランド人青年のこんなやりとりがある。これがいまいちぴんとこなかった。フィンランドには森があるから、人々がのんびりしているように見える?
サマーコテージ近くの湖でパンケーキを焼く風景日本の森の大半は山地にあって、暗くてうっそうとしたイメージだ。それに比べて、フィンランドの森は明るい。平坦な土地に木がまっすぐ生えている。枝葉がそれほど生い茂っていないから、空がよく見える。湖もたくさんあるので、開放的な感じなのだ。
森の中にあるサマーコテージフィンランド人に、休みの日に何をするかと尋ねると、「森」という答えが返って来ることが多い。「趣味は森」という人もいる。もちろん、シティー派で街で活動的に過ごすのが好きな人も多い。でも、フィンランド全土の約7割を覆う森は、彼らにとってより日常的で、どうやら日本人がちょっと近くの公園で散歩やピクニックという感覚と、そう変わらないようなのだ。
森での過ごし方は様々だ。夏はハイキング、冬はクロスカントリー。ベリー摘みやきのこ狩りも楽しめる(映画『かもめ食堂』の中でもたいまさこはきのこ狩りをしている)。夏休みは森にあるサマーコテージで過ごす人も多い。フィンランドには自然享授権というものがあって、森の中はどこでも自由に出入りできる権利が保障されている。火の使用は制限されているし、木を伐採することも厳しく禁止されているが、国有林だろうが、私有地だろうが自由に入って野生の果実やきのこをとることが出来るのだ。
マサコ「ぼーっとするのって結構難しくないですか?」
森散策の後は珈琲とともにひとやすみ湖を見ながらコーヒーを飲んだり、寝ころんで青い空を眺める。実際に体験してみると、日常のせかせかした気ぜわしさがなんとなく消えて行くような気がする。森にいると、自然とぼーっとしてしまうのだ。
ちなみに、フィンランド出身である『ムーミン』のアニメに出てくる森は、結構うっそうとしている。ムーミンのストーリーはフィンランド人作家トーベ・ヤンソンによるものだが、アニメーションは日本で製作されている。とすると、ムーミンの森は日本の森なのかもしれない。