本日の1杯 vol.8【ジンの3大カクテルをまとめて楽しめる”名前のない”オリジナル】

品川区の大井町駅周辺はJR山手線を外れているものの、お薦めのショットバーがたくさんある。今日は、大井町でも老舗である「KIYOMI」で飲むことにした。
KIYOMIのマスターは日本バーテンダー協会の全国理事を務めていた長谷川馨氏。東京タワーが完成した昭和33年にバーテンダーになってから、御年70歳、キャリア51年を数えるベテランだ。
この日長谷川氏はスキーで足を怪我しており、チーフバーテンダーを務める息子の長谷川信介さんにお酒を作ってもらった。


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ビールでのどを潤した後、気分的にカクテルが飲みたかったので、「アルコールが強めで甘くないカクテルを」と注文してみた。あまり悩まず、すぐに材料の瓶をカウンター上に並べるが、作ろうとしているカクテルがわからない。オリジナルカクテルのようだ。

レシピはジンが20cc、ベルモットとコアントロー、フレッシュライムが10cc、そしてアンゴスチュラビターを1ダッシュ。ジンを使ったカクテルの中でも特に有名な、マティーニ、ギムレット、ホワイトレディーのレシピをまとめてしまったのだ。奇をてらったかと思いきや、味のバランスはよく、しっかりさわやか。もちろん、アルコール度数は高めで、パンチも効いている。
名前はまだない。「なかなか、ぴったりの名前が思い浮かばない」と信介さん。

ところで、「アルコールが強めで甘くないカクテルを」と男性がバーテンダーに頼むのは問題なし。個人的な意見だが、ショットバーに行って「メニューをください」というよりはよっぽど好印象だ。もちろん、スタンダードカクテルならなお格好いい。女性はさらにわがままになっていい。「炭酸は飲めないけど、甘すぎない感じ。あと、酸っぱいのは駄目だけど、色は黄色で」というオーダーも、経験豊富なバーテンダーなら余裕で対処してくれるだろう。

お薦めできない注文方法が二つある。インターネットで検索した誰も知らないようなカクテルを注文する人。当然、バーテンダーも知るわけがなく、手持ちのカクテルブックに載っていないことも多い。そんなので見下したり、勝ち誇った態度をする人はショットバーに出入り禁止だ。

ちなみに、そういったレアなカクテルを片っ端から探し出し、自分で作って飲んだことがある。何百というマイナーカクテルを試したが、メジャーカクテルに匹敵する味のレシピは数個しか見つからなかった。普通のお酒に飽きるまでは、手を出す必要はないだろう。


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次が、「私のイメージで作ってください」というもの。十数年前はよく聞かれた台詞で今時それはないだろうと思いきや、多くのバーテンダーが時々注文されるというので驚いた。常連で気心が知れた関係になり、冗談で頼むならもちろんいい。勝ち気な女性にテキーラをストレートで出せば、笑って盛り上がるだろう。

ただ、一般のお客さんだと困る。イメージも何も、その人のことをよく知らないからだ。また、バーテンダーは客の素性を詮索しないという職業上の習性もある。もしわかったとしても、素直に作って女性が傷つくのも最悪。味の好みだって全く食い違う可能性が高い。

よって、通常は手持ちの女性向けオリジナルカクテルを作って出している人が多い。バーによっては、ホワイトレディなどの既存のカクテルを作ることもある。
女性には喜んでもらえるものの、一緒に飲んでいる男性に「誰にでもこれ作ってるんでしょ」なんて言われるとぶち壊し。

お客様第一のバーテンダーの中には、そういったオーダーもウェルカムという声もある。しかし、その人でも耐えられないのが、作ったオリジナルカクテルに女性の名前を付けて出すように言われることだそうだ。ロマンチックな雰囲気になるカップルもいるだろうが、目まいがするシチュエーションだってあるだろう。

どうしても、イメージで作ってもらいたいなら、明確に言葉にして頼もう。
自分で頼むとすれば「アルコール度数が高くて、酒の味が強くて、色はブラウン」だろうか。まぁ、シングルモルトが出てくるのは間違いない。


【カクテル&ワインKIYOMI】
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