第56回 洋楽編 BOSTON――活動36年、アルバムわずか5枚! 米国が誇る国民的バンド

先日、とあるお店に入ったら、「BOSTON」の『A Man I’ll Never Be 』という、すごく懐かしい曲がかかっててね、なんだか嬉しくて、曲が終わるまでお店から出られませんでした(笑)。この曲が発表されたのは1978年で、俺はリアルタイムで聴いていたわけではなかったんだけど、「ロックバラードといえばこの曲!」と雑誌でよく取り上げられていたので、バラード好きの俺がチェックしないわけにはいかず(?)、中学・高校のころによく聴いていました。

BOSTONは1976年にデビューして、今もなおアメリカでは大人気のバンドです。アメリカン・プログレ・ハードなんて呼ばれてるけど、俺がイメージするプログレとはかけ離れているので、その呼び方はしっくりこないんだよなあ。でも、ポップでキャッチーな印象なのに、曲の展開が複雑だったりもするし、プログレといえばプログレなのかねえ……。まあ、呼び方はどうでも。ハードロック要素もありつつ、アメリカのバンドらしい爽やかさもあるバンドです。

boston.jpgBOSTONの何が凄いって、35年以上のキャリアがある現役のバンドでありながら、たったの5枚しかアルバムが出ていないんだよね(ベストアルバムを除く)。しかもそのほとんどが100万枚を超えるセールスを記録し、ファーストアルバム にいたっては、なんと1800万枚以上。俺が初めて聴いたのは中学生のころで、そのときも「8年ぶりのニューアルバム発売!」とか話題になっていたんだけど、その8年ぶりのアルバムも当然のように全米チャートの1位になった。凄いよね。日本じゃこんなスパンでの活動(と成功)は考えられないけど……アメリカの国民的バンドならではなのかな。

もちろん凄いのはセールスだけじゃない。曲が良いからこそ人気もあるわけでね。透き通ったハイトーンで歌われるポップでキャッチーかつ甘美なメロディに、重厚なハーモニー、よく練られたアレンジ。楽曲の完成度はおそろしく高い。ギターという観点から見ても、メロディアスで印象的なソロや、何重にもギターを重ねるギターオーケストレーション、中音域を強調した独特なサウンドは、聴けば一発でBOSTONだとわかるオリジナルなもので、やっぱりその辺のバンドとは違う。そう、BOSTONはギターサウンドに凄く特徴があるんだけど、そのサウンドはなんと、リーダーでマサチューセッツ工科大卒のギタリスト、トム・ショルツが自作したエフェクターやアンプで作り出しています。そして、さらにトムはそのエフェクターやアンプを製作・販売する「ロックマン」という会社まで作ってしまう凄い人でした。ちなみに、ロックマンは80年代のアーティストがこぞって使用していたので、そのころのレコードではロックマンサウンドがたくさん聴けます。

さて、そろそろ本題にいきましょうかね(遅いわ)。ロックバンドの魅力は、なによりも、激しいロックソングにあるわけだけど、ロックバンドならではのドラマティックなバラードもまた、その魅力のひとつ。とくにハードロック/ヘヴィメタル(HR/HM)系アーティストのバラードは、ポップス系アーティストのバラードよりもさらにドラマティックで、美しいと言ってもいいほど(大仰ととる人もいますが)。そんなHR/HMバンドが大人気だった80年代は、ある意味で彼らのパワーバラードの時代だったと言っても過言じゃないと思うんだけど(シングルヒットした曲がたくさん)、そのなかでも、BOSTONのバラードは頭一つ抜きん出ていたと思います。スローなだけじゃないし、悲しいだけじゃない。ただ、当時、大ヒットしていた『Amanda 』というバラードは、俺の好みからするとちょっと甘すぎちゃって、敬遠したりもしていたんだけどね。でも、『A Man I’ll Never Be』は、雑誌のバラード特集なんかでいろんな人が挙げていて、その中には普段甘いバラードを好まないような評論家もいたから、この曲はちょっと違うのかな、と興味が湧いて聴いてみたら、大甘バラードでした(笑)。

ただね、この曲は甘いだけじゃなくて、ロックしていたし、次々と展開していく曲構成は(やっぱりプログレかも)、パートが多いのに何一つ無駄がなく、ここまで完璧なロックバラードはそうないかも……と、気がつけばお気に入りの一曲になっていました。また、歌詞に歌われる大人の男の哀しみが、ガキだった俺にはなんだか渋く感じられてねえ。今読み直すとけっこう女々しいんだけど。“A Man I’ll Never Be”は、「そうなれない男」とでも訳せばいいかな? 彼女の望む男になれない自分を歌ってるわけですよ。これ、今の俺にこそグッときます。大人になりたいっす(苦笑)。

いまだ大人になりきれてないという中年男の皆さん、ぜひこの曲を聴いてみてくださいね。胸にくるものがあるかもよ。……明日もがんばろ。