あれはパティ・スミスの自伝「ジャスト・キッズ」だったか、夭折してしまったスウェーデン作家スティーグ・ラーソンの人気サスペンス小説「ミレニアム」だったか、それともまったく別の本だったか。いずれにしても思い出せないのだが、何かの本に登場した「アボカドを食べる時期を判断することに長けた女性」というのが忘れられないのである。 僕が引きつけられているのは「アボカドの食べ頃判断力」という点で、なにしろ本文の流れとはまったく関係なく唐突に出てくるエピソードだったので、その時はスッと読み進んで特に印象に残らなかった。
ところが自分でアボカドを使ったとあるレシピを作る段になってこれが気になって仕方がなくなったのだ。そういうわけで「思い出せないのに忘れられない」というのは矛盾しているようだが書いたとおりなのであります。申し訳ない。
で、その料理というのがこちら、「アボカドの唐揚げ」。
はい、こちらが「アボカドの唐揚げ」です。
アボガドを選ぶところから苦闘が始まります
この料理を知ったのはいつもレシピの参考にさせてもらっている女友達のブログ。
その、彼女によって撮影された旨そうな写真(いつも彼女は本当においしそうに撮るのだ)を見て激しく食べたくなったのがきっかけで、これはイイ、ぜひ作ってみようと思ったものの、記事を読んでいただくとおわかりの通り、このレシピには「熟れていない固いアボカド」が適しているらしい。ところがこの未熟のアボカドというのがなかなか手に入らないのだ。
たいていが「すぐに食べられます」と書いてあって、なるほど手に持ってみると外からでも熟しているのがよくわかる。そのまま切ってわさび醤油につけたり、マグロの中落ちと和えたりするにはよいだろうが、唐揚げになんてしたらムニャムニャになってしまいそうだ。
ようするに売る側がいい熟れ頃になるのを待ってから店頭に並べているわけで、こんなことからも食べ頃の判断が難しいのがよくわかる。店によってはアボカドの棚に(こちらでちょうどいい具合に調整してるんですから)「指で押さないでください」とわざわざ注意書きが貼ってあるくらいである。
しかるに彼女が書いたこのエントリを読んだのが去年の11月、最終的に固いアボカドを見つけたのは3月で、ブランクにして4カ月。青く固い、しかも90円を切った値段のアボカドを見つけて思わず3つも買ってしまったことはご理解いただけるだろうと思う。まずそのうちの1つを使って件の「唐揚げ」を作ろうとしたのである。
が、これが恐ろしく固いのだ。なにせ包丁が入らないくらい固い。ころころ転がって危ないのを何とか半分にしていつも通りひねって外そうとしても種がまた離れない。さらに皮も身から離れにくいのを削ぐようにして切り分けて唐揚げにしてみたものの、さすがに「未熟」すぎてあのアボカド特有のネットリ感もなくて青臭く、さして旨くない。これではいけない、と残った3つは棚の上に放置してもう少し熟すのを待つことにした。
ところが間の悪いときは悪いものでそれから数日、やれ打ち合わせだ落語会だと外食することが続いて家で食事をする機会に恵まれない。ふと気がつくとアボカドはさわっただけでそれとわかるほど熟してしまい、しかたなく2つほどをわさび醤油につけて肴にし、さすがに3つは食べられぬ、とひとつは引き続き棚の上に置いておいた。その結果、さらに2日たった最後のアボカドは追熟が進みすぎて見るも無惨なことになり、やむなく廃棄の憂き目を見たのであります。
この経験で学んだのは
・唐揚げに適した固さを保つのは、ほぼ1日だけ
・さらに追熟して刺身などで食べるのに適しているのは2日程度
・そこから先、食べられなくなるのはあんがい早い
と言うことだった。「安いからといってアボカドは3つ以上買ってはいけない」(2つは食べられても3つは飽きちゃうからね。で、残してダメにしてしまうんだ)というのも追加しておく。そこで思い出したのが「アボカドの食べる時期を判断することに長けている女性」のことである。彼女はいかにしてその判断する術を学んだのか。その方法を自分でも身につけておきたいと思った、という次第なのだった。
ことほどさように「ものの食べ頃」の判断はあんがい難しくて、気がつくとすっかり「いい時期を過ぎていた」なんてことになりかねない。
肉なんかは人によって「ちょっと腐りかけが旨いんだ」なんて言われることもあるし、昨今は「エイジング肉」なんて話も聞くけれど、これは素人にはちょっとマネのできないプロの仕事だろう。同様に「一瞬にしてアボカドの食べ頃を診断する」プロというのが存在しても不思議ではないと思ったのである。そしてそれがそれほど簡単なことではないだろう、ということも。
不景気な昨今、なんでもお金をかけずに自分で、という風潮があるのはよくわかっているけれど、こういう微妙な件に関してはアウトソーシングしてもいいのではないか、と感じた今回の出来事だった。
アボカド売り場(というのがどこの店にもあるかどうか、わからないけれど)で「唐揚げ用」、「刺身用」、「グアカモーレ用」……なんて熟れ具合によって分けてあったらいいと思いませんか。そんなふうにプロの仕事を見せてくれたら一個100円くらい出してもいいよ(ケチ)。
そういえばグアカモーレで思い出したけどこんなアニメがあったね。おもしろかったな。切り口が旨いんだ。いやアボカドの切り口、じゃなくて発想の切り口ね。
てなわけで今回のかんたんレシピはとうぜん「アボカドの唐揚げ」。ビールにワインに酎ハイに何でもござれの一品、ぜひどうぞ。
しかし4月も下旬だというのに寒いですね。次の更新のころ、多少は暖かくなっているかな。5月20日だもん、さすがにね。お願いしますよ。
【Panjaめも】
●ミレニアム(スティーグ・ラーソン)
主人公がモテすぎなところがアレですが、小説としてはなかなかおもしろいです。
●ジャスト・キッズ(パティ・スミス)
60?70年代アメリカ東海岸のロック・ファンと往事のアメリカン・コンテンポラリーアートに興味のある向きは必読
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