歌舞伎に『魚屋宗五郎』という今でも年に一度は舞台にかかる人気の演目がある。
「武家奉公に出た妹が殺された恨みを晴らすため、江戸っ子である兄・宗五郎が妹の無事を祈り、『願』をかけて断(た)っていた酒を食らい、その勢いを借りて屋敷に乗り込む」
という話(ものすごくザックリ)で、眼目のひとつがその酒を飲むシーン。
というわけで、この酒を呑む様子がたまらないので舞台がハネた帰りには必ずや居酒屋に乗り込んで宗五郎同様酒を食らうわけである。
この酒を「食らう」。なぜ「呑む」と言わずに「食らう」かというと、これがまさしく小説などで書かれるように「ガブリ、ガブリ」と乗り地(下座の曲に合わせて調子よく)で呑むからで、見ていて豪快きわまりない。
が。
コレに触発されて後悔するのは翌日で、心持ちのほうがいささか悪くなる。いわゆるひとつの二日酔い。そうなるのがわかっているので酒とともにツマミを食らう。筆頭にあげられるのはオナカに溜まるポテト・サラダ。通称「ポテサラ」(略さなくてもいいよな)、あるいは厚っぺらに切ったベーコンの焼いたヤツなんかをツマミに食らい、呑む。
こういうことをしながら同行の妻や友人などと今見てきた芝居についてああでもない、こうでもないと話すのはまさに至福のときなんであります。
ちなみに「女房言葉」(室町時代、宮中に仕える女性が使った隠語のようなもの)では「酒」のことを「笹」といい、「酒を飲む」ことを「笹を食べる」などという。やんごとなき方々も食らっていたというわけ(この表現、落語「妾馬」にも出てきます)ですね。
ところでこの「魚屋宗五郎」のもうひとつの眼目が妹を殺害した殿様とそれを隠蔽しようとするサムライに対して宗五郎がいわば「下克上」的に啖呵を切る場面。これがあまりにも爽快なので居酒屋でそれを真似ようとするのだがうまく言えた試しがない。でもそれがまた酒を進ませてしまうんだなぁ、というわけでまた次回。
【Panjaめも】
・歌舞伎名作撰 新皿屋舗月雨暈 魚屋宗五郎・茨木
・そんなときに最適な『がぶ飲み』日本酒「高天神・本醸造」(旨い!安い!そしてこの店、配送が早い!)
※次回掲載は10月25日、以下隔週となります。