落語と音楽と酒が好きなイラストレーター、モリモト・パンジャでございます。こんにちより、この好きなことどもについての駄文を書かせていただける由、誠に光栄至極、今後ともおつきあい、そしてお見知りおきのほど、よろしくお願い申し上げます。
ところで「落語好き」、「酒好き」、「音楽好き」と書いてはみたものの、世間にはその道に詳しい方々は星の数ほど。どれもただ無闇に聴いて見て飲んでばかりの俗に言う「横好き」の「半可通」というヤツ。 このうちのどれかについての深い知識を得よう、などと期待される方には「それはチョト無理、ゴメンね」と最初に申し上げておきますが……。
とはいえどれもおよそ40年(落語・酒)、約50年(音楽)とつきあいだけはベラボウに長い。そんな中から「あーそういうのもあるね」なんてェことを読みながら思い起こしてニンマリしていただければそれだけでもっけの幸いというところ。 重ねてご無礼もあろうかと思いますが、ご容赦下さいますよう。
さて、てなわけでいきなりくだけて書きますけども今夏ずいぶん蒸し暑かったでしょ。んなもんだから勢いビールだ冷酒だホッピーだ、と酒が進みましたわね。
で、そんな「暑気払い」に飲むときにいつも思い出すのが『青菜』って落語。登場人物は暑いさなかで作業する植木職人とそれを眺めていた主人、特に炎天下での庭仕事を終えた職人に、主人がねぎらいの酒を勧める、という下りで……
(職人が主人に酌をされて手にした杯を口に運び)
職人:「へぇ、こりゃずいぶん冷えてやすねぇ。さすがお屋敷、贅沢なもんだ。井戸かなんかで冷やしてらしたんで?」
主人:「いや、とくだん冷やしてはおらんがな、植木屋さん、あんたはいま暑いさなかで仕事をしていたから口の中に熱がある。それで冷たく思うんではないかな。時に植木屋さん……」
というこのやりとりを毎度暑いさなか、最初の一杯を飲むときに思い出すんですね。このあとやれ「鯉の洗い」だの「鰻」だのを肴に杯を重ね、やがてくだんの「青菜」が登場する、という寸法。夏にはよくかかる噺です。続きはどうぞ寄席でお楽しみを。
ところでこの『青菜』、元は上方の噺だそうです。それを昔の噺家さんが東京へ持ってきたらしい。浅学にして本寸法の上方版『青菜』は聴いたことがないんですが、幾度か僕が東京の高座でうかがった際にはこの職人さんに勧められる酒が「直し」という設定になっている。
「直し」
これが高校時代に初めて聞いてなんだかわからなかった。「『燗冷まし』かしらん?」なんて場違いなことを考えていた。しかしいくら職人相手とはいえ大家の主人がそんなもん出すわけありません。若かったんだな(当たり前。高校生よ)。これが「焼酎と味醂を合わせたもの」だと知ったのはずいぶん後のことです。 それはかの著名にして名作の誉れ高い『本山荻舟 著・飲食辞典』をボンヤリ眺めていたときのことで、「味醂」の項に"(味醂は)醸造物中では比較的新しいもので、焼酎を混和したのを「直し」または「柳かげ」と名づけ、暑気払いとして夏季に用いられ……(以下略)"などと書いてあって「なるほどコレがアレか! アレがコレか!」(なんだそりゃ)と膝をたたいて喜んだものです。
はい、もちろんやってみました。程度のいい味醂と程度のいい米焼酎(個人的には芋より米の方が合うように思いますね)。チョイと冷やして口に含むと上品な甘さに清涼感があってたいへんけっこうなものでありました。 で、この「柳かげ」(この呼び方も『青菜』に出てきます)のアテには「鯉の洗い」……は手が出ないので「千切り茗荷のジャコがけ」で。
節電のおりとて冷房を切って「葦簀(よしず)」か「すだれ」で夕陽を遮った部屋で団扇片手にクイ、と行きたいところ。 もっと言えばBGMには今夏個人的にハマっている音、ジャコー・ド・バンドリン、オスカー・アレマンあたりをかけながらひとつ!
なわけで手探り足探りの第一回はこんなところでまた次回。末永くどうぞよろしゅうおつきあい下さいますよう。
【Panjaめも】
・青菜/柳亭市馬
・プレミアム米焼酎「待宵」(熊本限定……アナタも知人から送ってもらって!)
・Swing Guitar Masterpieces 1938-1957/Oscar Aleman
※HMVではこちら:http://www.hmv.co.jp/product/detail/660536
・Original Classic Recordings Vol.1 /Jacob Do Bandolim
※HMVではこちら:http://www.hmv.co.jp/product/detail/169172