バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)

20150313cpicm.jpgかつてヒーロー映画で大スターとして崇められた男が、今はただの落ちぶれた俳優に成り下がってしまった。過去の栄光と人生を再び取り戻すため、自身が主宰するブロードウェイでの初舞台を目標にもがきあがくが――。本年度アカデミー賞で主要4部門の作品賞、監督賞、撮影賞、脚本賞を堂々受賞の本作。ほか、各地の映画賞でも計120を超えるノミネートと受賞があるなど、その作品力は各方面から高く評価されている。

20150313cpic_a.jpgスーパーヒーロー映画『バードマン』の主役として世界的スターへと昇りつめた過去を持つリーガン(マイケル・キートン)。だがその栄光は長くは続かず、20年も時が過ぎた今となっては華やかな大作の仕事はまったくなく、ただの売れない役者に成り下がってしまっている。スランプから抜け出すため、自らの脚色・演出・主演で初めてブロードウェイの舞台に立とうと一念発起するのだが……。

劇中の『バードマン』は架空の映画であり、実在はしない。これは実在の『バットマン』をもじったネーミングであり、リーガン役のマイケル・キートンは実際に『バットマン』シリーズでスーパーヒーローを演じている。キートンは劇中のリーガン同様に続投はしておらず、この点でもリーガン役はキートン自身を反映している。まるで自分自身を皮肉られているかのようなこのキャスティングに、よく首を縦に振ったものだと感心せざるを得ない。だが、これを受けることができる器があるからこそキートンは真に一流の役者であり、本作に様々な賞をもたらすキーマンとなりえたのだ。

他のキャスティングにも風刺が効いていて思わず笑ってしまう。リーガンの娘役のエマ・ストーンは『アメイジング・スパイダーマン』シリーズに、そしてリーガンを脅かすスター俳優役のエドワード・ノートンは『インクレディブル・ハルク』にと、それぞれリアルでアメコミ原作の超大作に出演した経歴を持つ。もしかしてキートンが現実でも苦々しく思っているかもしれない、と思わせる絶妙な配役なのだ。

最初から最後まで、すべて一本の長回しで撮影されているかのような手法。役者にとっては過酷なこの環境のなか、だからこそ俳優としての演技力が試され、研ぎ澄まされる。まるで、純度の限りなく高いアルコールを、浴びるように飲んでいるかのように。そして、虚とも実ともつかない映像が、台詞が、観客を悪酔いさせる。深酒のあと、あれが現実だったのかどうかさえ思い出せない、二日酔いの苦い朝かのように。

監督:アレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥ(『21グラム』、『バベル』)
脚本: アレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥ、ニコラス・ヒアコポーネ、アレクサンダー・ディネラリス・Jr、アルマンド・ボー
出演:マイケル・キートン、ザック・ガリフィナーキス、エドワード・ノートン、アンドレア・ライズボロー、エイミー・ライア、エマ・ストーン、ナオミ・ワッツ
配給: 20世紀フォックス映画
公開: 4月10日(金)、TOHOシネマズ シャンテ他全国ロードショー
公式サイト:http://www.foxmovies-jp.com/birdman/ 

 

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