セッション

20150326cpicm.jpgプロのドラマーを目指す音楽大学生と鬼教師との狂気のレッスン! サンダンス映画祭ではグランプリ&観客賞を受賞し、本年度アカデミー賞では教師役のJ・K・シモンズが助演男優賞を受賞するなど計3部門を受賞。製作費わずか3億円、しかも監督・脚本のデイミアン・チャゼルは28歳という若さでこの快挙を成し遂げた本作は、音楽映画のジャンルを超えて映画史に新たなる金字塔を打ち立てた快作だ。

名門音楽大学に入学したドラマーのニーマンは、ある日突然前触れもなく伝説の鬼教師フレッチャーのバンドへとスカウトされる。彼に認められるということは、偉大な音楽家になれるということと同義語だ。上昇志向の強いニーマンは、どんなに罵倒されようとも、ドラムの叩き過ぎで指から血を流そうとも、必死でフレッチャーのしごきに耐えようとするが……。

20150326cpic_a.jpg本作のジャズ界とは別のポピュラー界ではあるが、私も音楽業界の端のまた端っこに身を置いているので、上下関係がこんがらがって織りあがったこの”歪んだ”世界観は非常に理解できる。全員が全員ではないが、音楽を仕事にできる人というのは一風変わった人が多いように思える(私とてそのうちの一人かもしれないとは付け加えておく)。一般的な社会では重要視される実務的な能力やまともな倫理観を持ち合わせていない人が音楽的才能を持ち合わせていたために、結果、音楽業界で仕事をしているのだ。逆をいえば、音楽の能力さえ秀でていれば、ある一定のポジションに付くことは可能なのだ。それを維持できるかどうかは別として。

フレッチャーは音楽的能力に秀でたサイコパスだ。彼のパワハラっぷりは常軌を逸している。「素晴らしい音楽」のためなら、汚らしい言葉での罵倒も、人格否定も、彼の中では何もかも許されるのだ。許されるどころか、それこそが「素晴らしい音楽」を生徒から引き出すための手腕だと信じて疑わない。先にも述べたように現実の音楽業界には醜い部分も存在するし、何もかも“競争”の世界なので、音楽という楽しい行為を行なっている割には、それが“仕事”になってしまえば、恨みや嫉みがいとも容易く発生してしまう。だからいい言い方をすれば、フレッチャーの洗礼を受けさえすればその後の音楽業界の厳しさへの耐性はできあがるのかもしれない。だが、だからといって本当にこんなことが許されていいのか? フレッチャーはただ単に自分の能力に胡坐をかいているだけではないのか? 音楽の能力さえ高ければ、どんなに他人を傷つけてもいいのか? 本作の命題はそこなのだ。音楽の現場を「戦場」として見せることによって(実際に戦場の部分もあるので誇張では決してない)、極限状態に置かれた人間心理を浮き彫りにしていく。

監督のデイミアン・チャゼルは実際に高校時代にジャズドラマーとして活躍しており、本作は監督自身の実体験から生まれたものだという。本作の細部の描写にはジャズ界からのツッコミがなきにしもあらずなようだが、主題はそこではない。異常者の突飛な言動をちりばめて観客にショックを与えて終わり、などという平坦な作りでもない。展開の見えない起伏に富んだストーリーに観客を巻き込む、紛れもない心理サスペンスなのだ。

監督・脚本:デイミアン・チャゼル
出演:マイルズ・テラー(『ダイバージェント』)、J・K・シモンズ(『JUNO/ジュノ』)、メリッサ・ブノワ(『glee/グリー』)
配給: ギャガ
公開: 4月17日(金)、TOHOシネマズ 新宿(オープニング作品)他 全国順次ロードショー
公式サイト:http://session.gaga.ne.jp 

 

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