肉食系女子はジビエがお好み


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だいぶ冷え込んでまいりました

信州は蓼科。閑散とした別荘地の中、忽然とフレンチレストラン『オーベルジュ・エスポワール』が現れる。11月15日の猟解禁に伴い、国産ジビエを求める食通で賑わうお店である。そして何を隠そう、私も冬になるとそわそわし始める者のひとり。
さて、本日は何をいただけるのだろうか?


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本日のごちそうたち

ジビエとは、狩猟によって得られる野生鳥獣の事で、100%天然の高級食材。鳥獣の種類で味が変わるのはもちろんのこと、固体差や「フェザンタージュ」と呼ばれる熟成の度合いにより、肉の風味が変わるのが特徴だ。
熱心なファンはあらかじめ「×××を、熟成何日目でお願い」と、指定するマニアックな食材である。


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信州産ジビエのカルパッチョ
赤黒いほうが真鴨

前菜からして肉だが、信州産ジビエのカルパッチョ(右が鹿、左が真鴨)。
鴨の生肉とはなかなかレアである(注:駄洒落ではない)。口に入れると、ねっとりと舌にまとわりつく。まったく臭みがなく、上質なマグロの赤身のような味と食感が不思議で、いつまでも味わっていたくなる。
聞くところによると、警戒心が弱い今の時期、猟師は至近距離から急所を狙う。ストレスを与えず即死させる事で、素材の風味を損なわず新鮮な食材が手に入るのだそう。こんな食にまつわるうんちくもまた楽しい。

本日のメインは、天竜川で取れた小鴨(サルセル)のロティ(焼いてソースをかけた一品)。
大胆に丸ごと一羽。お頭と両脚つきで、在りし日々の面影が残っている。思うにいつ外敵に襲われるかわからない状況で、たくましく生き抜いてきた野生動物は究極のアスリート。
全身が筋肉で引き締まり、その肉はナイフの侵入を簡単には許さない。
肉を切ると言うよりは、削ぎ落とす。腱を剥ぎ取り、脳みそをすすりあげる。

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諏訪市後山の仔猪(マルカッサン)の生ハム

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天竜川で取れた小鴨(サルセル)のロティ

犠牲になった命に感謝し、骨についた小さな肉片まで、丁寧にかじり取る。瀟洒なレストランで私はひと時、野生に還る。
肝心の味は魚のはらわたにも似た、わずかにほろ苦い味。ひとことで言えば血の風味。鉄分っぽい味で、野性味に溢れている。品質を管理され、誰の口にも合うよう改良された、食肉とはわけが違う。

シェフの話だと信州ジビエは、作物を荒らす動物を駆除し、その肉を有効活用する目的もあるそうだが、食べるために野生動物を捕ることに抵抗を覚える人もいるかもしれない。

では何故ジビエを食べるのか?

野生のパワーを得たいがためである。

人生は食うか、食われるか。
私はいつだって、能動的に動く肉食動物でいたいのだ。現代人からは失われてしまった野生を取り戻したい、という本能がどこかにあるのかもしれない。

と、
食い意地の張った自分に言い訳してみる。