9月に入り、猛暑だった今年のイタリアの夏も終わりの兆しをみせ始めた。朝晩は急に涼しげになり、日の暮れるのも早さを増してくる。
ブドウの収穫の様子 夏の終わりは少々寂しさがあるものの、収穫の秋に向かい食べものがさらに美味しい季節であるのは嬉しいこと。これから、各地で様々な収穫祭が開かれる季節でもある。
9月初旬、知り合いがオーナーであるグラッパとワインの製造工場にて感謝祭が開かれた。ここ、北イタリア、ヴェネトを代表する発泡酒のD.O.Cワイン(統制原産地呼称ワイン)であるプロセッコの産地、コネリヤーノconeglianoにある『ディスティッレリア・ボッテガDistilleria Bottega』。プロセッコとグラッパの製造で有名な会社である。プロセッコの産地という土地柄、プロセッコ種のブドウからなるグラッパは、さらりとして飲みやすく、ほのかに梨の香りがする、大変質の良いもの。銘柄名は『ALEXANDERアレキサンダー』といい、日本にも届いている。
社屋及び製造ラインから倉庫までを兼ね備え、グラッパ博物館なども備えた同社は、ブドウ畑に囲まれた静かな場所に位置する。
収穫されたブドウたち。充分に熟してジューシー
グラッパの製造ラインを説明するサンドロ氏 現在、同社のオーナーは3代目のサンドロ・ボッテガ氏。創業者である彼の祖父から受け継がれた、イタリアならではの家族経営を基礎とする会社だ。このサンドロ氏、“パフォーマンス王”とでも呼びたいくらい顔の表情豊かによく喋り、よく動きまわる。マスコミへのインタビューにもサービス精神旺盛で対応。自社の製品に対しての愛情の深さが見ているだけでも伝わってくる。年間の半分以上は海外へ。自らが商談に世界各国を走りまわる、超エネルギッシュ、超多忙な社長だ。ちなみに10月末には日本にも行く予定だとか。
さて、夕方6時ごろから始まったこの会は、ブドウの収穫体験で幕を開ける。中世の衣装に仮装した関係者を含む参加者がそれぞれにハサミを持ち、木に茂るブドウを収穫。
今にも皮がはじけそうな、ぷっくりと熟したブドウは、味も濃くてジューシー。ワインの製造の初段階であるモスト(ブドウの絞り汁)を試飲させてもらったが、これはものすごく甘くて濃い。
その後工場視察などを経て、お待ちかねの夕食のテーブルへ。アンティパストからドルチェ、そしてシガロまでのフルコースでそれぞれの料理に合わせた同社のワインがふるまわれる。終わりはもちろんグラッパ。
夕食のテーブルにて
初ものキノコ、フィンフェルティを使ったパスタ 私が気にいった一皿はプリモの皿、マルタリアーティmaltagliatiという形が不揃いの手打ちパスタに今年の初もののフンギであるフィンフェルティという品種のキノコとの組み合わせ。その後は子豚の丸焼きが登場。こんがりと焼かれた頭つきの子豚、口にはリンゴをくわえさせられ、木のボードの上に横たわっている。給仕人が大きなそのボードを抱えてテーブルの周りを歩き、皆に披露。私の隣に座った女性は、この子豚の姿を見た後にはこの料理は食べられない、と皿を自分の席に置くのさえ拒否。私はもちろんいただいたが、柔らかく焼かれた子豚、とても美味い。
子豚の丸焼をサービスする給仕人
瓶詰めされて出荷を待つグラッパの瓶 夕食会は夜中1時過ぎまで続き、ピアノの弾き語りや話上手なシニョーレの小話などで大いに盛り上がる。この手の小話、イタリア人には大ウケで、まるでテレビドラマの1シーン、またはマンガの1シーンのように、皆が腹をかかえて大笑いする。まさしくノリよく“ドッ”と笑う。残念ながら、イタリア語の理解不足も重なってか、笑いのツボがいまいちわかりかねる私は、こういう場では笑うタイミングをいつも逃してしまっている。
さあ、季節は変わりこれからが秋本番。今年はいくつの“おいしい秋”に巡り合えるのか、楽しみだ。